うらぬす

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐのうらぬすのレビュー・感想・評価

3.8
トマス・ウルフ。日本ではあまり名を知られていない作家だけど、アメリカ文学史の本ではいつも結構なページ数を割いて紹介されている大家。

だいぶ昔に出版されて今や絶版となっている日本語訳「天使よ故郷を見よ」「汝再び故郷に帰れず」のタイトルの響きの固さから、いかにも文豪っぽい気難しく品のある感じの人柄と思いきや、自信家でわりに軽薄で、少し傲慢のきらいのある人物だったようで(この映画は史実に基づいている)、ジュード・ロウの演技がぴたりと当てはまる。

コリン・ファースの演じる編集者マックス・パーキンズとタッグを組んでベストセラーを世に送り出す苦労を描きつつ、その経緯で揺れるふたりの感情や育まれる絆をとてもきめ細やかに描出する。スペクタクルな盛り上がりには欠けるけど、静かな人情の機微に観ていて心を動かされる、良い映画だった。

字幕作成にあの柴田元幸が協力しているということで、作中読み上げられるトマス・ウルフの小説の一節の、なんと芳醇な郷愁に満ちていることか。柴田訳で本出ないかなあと期待しちゃダメかな。