幽斎

ドント・ブリーズの幽斎のレビュー・感想・評価

ドント・ブリーズ(2016年製作の映画)
4.4
2016年を代表する作品ですが、ホラーと観るか、スリラーと捉えるかで評価は変わる。換気孔がしっかり汚いとか、デトロイトは「ロボコップ」の時と変わらず廃れてるなぁとか、電気を消したら立場が同じとか細かい点も良く出来てる。しかし、脚本にある縛りが有り、もっと面白く出来たと残念感も強い。

「ポリティカル・コレクトネス」を御存知でしょうか?アメリカ大統領選挙で有名に成りましたが、直訳すると「政治的正しさ」、平たく言えば人種や宗教、性別や障がいで差別しない事。例えば病院では看護婦と言いません、看護師です。移民の国であるアメリカは寛容な国でした。しかし今はその逆です、それを支持した有権者が過半数以上居る事は厳然たる事実です。

Filmarksのあらすじを読んで下さい。何か違和感は有りませんか?「盲目」と書いて有ります、これは本来避けるべき表現。「視覚障がい者」と呼ぶのが一般的。この様に表現が世相的に非常にセンシティブに成ってるので、障がい者である老人を怪物の様に描く事には倫理的に問題が有る。さりとて強盗を応援出来るかと言えば・・・つまり主人公達の立ち位置が不鮮明で、どちらに感情移入すればよいか右往左往する。ホラーの定石で考えれば、人殺しのモンスター側を応援するのは筋違い。この縛りを逆手に取ったのが「ゲット・アウト」。黒人差別を笑いに変えた優れたスリラーです。

本作を見て唸ったのは人工授精のシーン、此処で「視覚障がい者」=「The Blind Man」がサイコパスでは無い事が明確に示されてる。アメリカでは人工授精を賛成・反対で共和党と民主党が激しく対立してる。これを認めれば「神の否定」を肯定する事になる。イラク戦争の後遺症を重ねる事で、「神の不在を受け入れれば人は何でも出来る」と嘆く老人を誰が責められるのか?じゃあ人殺ししてもよいのかと矛盾がループする。深いテーマを雁字搦めの世相が拒み、結果的にホラーなのに怖くない仕上がりに為る、とても気の毒な作品。

今年制作が開始される続編が、どう修正してくるのか楽しみ。私的にはハリウッドの座頭市を目指してアクション・ホラーで良いのでは?と思います。
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