プペ

チェイサーのプペのレビュー・感想・評価

チェイサー(2017年製作の映画)
2.8
物語は″母子愛″を主軸におき、文字通りどこまでも息子を追いかける母の姿を描いている。

「欠如→回復」の物語であるが、この過程においてカーラが何かしらの成長をしたり、フランキーが母子愛を深めたりはしない。
設定から物語を紡いだ印象が強く、母と子の別離(起点)、父に頼れない状況、原始的なカーチェイスを生むためのスマホロス、共感性を得るために母ではなく子に愛着を湧かせるオープニング、母の執着を生むための親権争い(不利な状況の示唆)、カーチェイスをわかりやすくする色彩(赤と青)、これらの設定を積み重ねて一番描きたかったであろう設定″素人ドライバーである母がその母性だけでどこまでカーチェイスをがんばれるか″に集中させようとしている。
この目論見はある意味正解で、あらゆる車を巻き込みながら「道義的良心」と「母子愛」の葛藤を描く何の捻りもないそのド直球なストーリーは、中々に上質だった。


と、私の大好きな女優ハル・ベリーの最新作を大いにべた褒めしたいところではあるのだけれど、あと少しのところで諸手を挙げて賞賛することが出来ない悩ましさがこの作品には確実に存在する。

先ずはストーリーの練り込み不足。
その一つ一つの場面は極めて映画的で、非常にハラハラさせてくれるのだが、同時にそのすべてに説得力が乏しい。
スマホがないので被害を連絡することもできず、後味が悪い中で母は子を追いかけ続けなければならない。
この後味の悪さは観客側にも伝わり、またテンプレート的な″無能な警察″を描くことによって、被害はますます拡大していく。
この過程が″笑えない状況″になっており、カーラの中にある葛藤以上に俯瞰者である観客の方が追跡劇にのめり込めない。
また、スマホロスによる所謂万能感の排除によって、カーラの状況が刻々と悪くなるのはいいのだが、その解決の過程でカーナビが出てくるのは興ざめであった。
そこで文明の利器が出てきては、スマホロスで描いてきたローカルシチュエーションが台無しである。

物語はやがてカーラの機転により、事件の真相が暴かれるのだが、これはもう蛇足に近い印象で、カーチェイス主体の前半を考えれば最後までカーチェイスに徹するべきだったと感じた。


いずれにせよ、ワンアイデア勝負の映画としては微妙なつくりで、演者のイメージ(強い女性)が暴れるというキャスティングにあまり意外性を感じなかった。
ミステリー性はほぼなく、″母がどう阻止するか″という一点に集約され、その解答としてはありきたりな″車の激突″だったりするので、カタルシスはそれほど感じない。
もっとシンプルに、誘拐→追跡→拿捕→救出でよかった。
このわかりやすいカタルシスに″一般人ならでは″の行動とアイデアを盛り込むか、この事件によってカーラが人間的な成長を遂げる(離婚理由への理解など)があれば傑作になり得ていたかもしれない。

くどくどと長くなったが、結論として「面白くない」ということではなく、充分に見応えのあるサスペンス映画であったことは間違いない。
傑作を通り越して名作になり得る「雰囲気」を感じる映画だっただけに、口惜しさも大きいという話。
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