MasaichiYaguchi

永い言い訳のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.0
西川美和さんの原作・脚本・監督の最新作は、本木雅弘さん主演で社会の最小単位で、掛け替えのない存在である家族を見詰め、その一員を失った人々のドラマを静かに心揺さぶるようなタッチで描いていく。
本木雅弘さん演じる主人公・衣笠幸夫は自意識過剰でコンプレックスを抱えたタレント小説家。
20年以上連れ添っている妻・夏子との間は冷え切っていて、浮気相手さえいる。
そんな彼に降って湧いたような突然の妻の事故死。
世間体から妻の死を悼む振りをしていた幸夫に思い掛けない出会いが訪れる。
その出会いは、妻の親友で一緒に事故に遭った大宮ゆきの夫・陽一とその子供たち。
映画は同じ事故の遺族である幸夫と陽一たち家族との交流を軸に展開していく。
同じ妻を失った夫でありながら、片や小説家、こなたトラック運転手という職業だけでなく、性格も亡き妻に対する思いも全くと言って良いほど違う。
自意識もプライドも高く、スノッブであることに自己嫌悪さえしている幸夫が、感情をストレートに出し、情にもろい陽一に積極的に係わり、窮地にいる彼の家族に手を差し伸べていく。
一見幸夫の思い付きとも、気紛れともとれるようなこの行動が、本作のテーマに直結しているように思える。
映画の終盤の方で「人生は、他者だ。」という言葉が出てくるが、まるで自分一人で生きているかのようにしてきた幸夫が、妻を失った事故で知り合った陽一とその子供たちの為に行動する中で生きる意味を見出していく姿が心の琴線に触れる。
この幸夫のように周囲や家族を顧みずに生きている人は大勢いるような気がする。
本作は「人生は、自分だ。」と生きてきた主人公が、「人生は、他者だ。」と気付く物語だと思う。