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永い言い訳のおののレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
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アスミックエース試写室にて拝見しました。
西川美和監督が大好きで、『蛇イチゴ』をきっかけに映画好きになったと言っても過言ではありません。

強いて言えばですが、西川監督作品は映像、つまり音や空気や空間や質感光闇、もっと言えば五感で受け取るものが多いと思っています。そこへのロゴス的要素の絡まり方が最高で、観終わった時に頭も心も、五感全部、圧倒的体験として満たされる感じが大好きです。
今回の映画はどちらかと言えばロゴス的な要素で多くが組み立てられたように感じます。初めに原作という形で小説、文字に起こされているからでしょうか。そこに西川監督作品らしい比喩的詩的映像美が絡まってくる、そんな成り立ちに感じました。

初めの方の、夏子が「後片づけはよろしくね。」と扉を閉めるカットの詩情がとんでもなく、映画だなぁ、と思いました。その後夏子が美しい光のなかへ、上へ上へ、深く深く運ばれていき、物語は転がりだします。

幸夫のクズっぷりがあんなに愛くるしく見えるのは何故なのでしょう。そこがこの作品のトーンを何トーンも明るくしていると思います。現代日本で持て囃されている傾向にある人の、暗い部分を凝縮したような幸夫くん。しかし決して比喩的ではなくリアリティを帯びていて、それがとってもすごい。本当にこういう人、います。たくさん会ったことあります。象徴に留まらず、一個の複雑な背景や趣向を持った人間として立たせることができるのがすごい。ここまで観念に一個人としての息吹を感じることはない。逆も然り。そしてどの登場人物も然り。

正直書ききれないのですが、一番ぐっときたのは、幸夫くんが自分の名前を何度も何度も呼ばれることで、「本当」を取り戻していくという真実。本来の幸夫くんは、人生が何なのか、わかっていたのではないでしょうか。いつの間にか、忘れていただけなのではないでしょうか。何者でもなかった頃、夏子と愛し合ってた頃は、当然だった感覚なのではないかなぁ。ここは深読みです…

「本当」を覆いかくまってしまっている、途方もなく永い言い訳。そっちの方がいまを生きるのが楽だから、してしまっている永い言い訳。全編を通して、時間が経って、そんな映画だったような気がします。

劇場にも、ぜひまた行きたいです。
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