かえで

永い言い訳のかえでのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.1
観た直後はなんだかぼーっとしてしまって、ひと晩経ってから色々と思い返していたらじわじわきて視界が滲んだ。良い意味でミニシアター系の邦画っぽい、淡々として静かな空気感がすごく好き。シンプルで何気ない言葉や仕草のなかに、たくさんの思いが詰まっていて。邦画らしさの詰まった良作だなあと思います。

序盤はもう、主人公の幸夫に対して「何だこいつ…」と不快感しか募らなかったのですが、これも『聲の形』同様、幸夫という人間の持つ不快な部分って多かれ少なかれ誰しもが持っているものでもあり、自分の中にある嫌な部分を見せつけられているようだから不快に感じるんだな、と気づくと、何だかもうひとごととは思えなくて。
そんな幸夫がひょんなことから妻の友人家族の子供たちの面倒を見ることになるのですが、その様子がとっても微笑ましくて、観ていてすごくあったかい気持ちに。子どもという不慣れな存在に何とか近づこうと奮闘する姿を見ていたら、なんだかさっきまで不快に思っていた幸夫が愛おしく見えてきたり。この子役二人が本当に良くて、幸夫に慣れるまでのぎこちない感じとか、段々と心を許していくさまとか、もうまるで演技でなくドキュメンタリーを観ているように感じるくらい自然な演技でした。そして山田真歩さん、ああいう役もほんとに上手ですね…素晴らしい。

一度壊してしまったもの、失くしてしまったもの。それがどんなに修復不可能でどうしようもないことのように思えても、努力や気持ちの持ち方次第で、自分の中へ「取り戻す」ことはきっとできる。例えそれが独りよがりでも今更無駄なことだとしても、向き合うということはきっとそういうことで。タイトルが「長い」ではなく「永い」であることに、幸夫のひとつの決意が表れているように思う。
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