140字プロレス鶴見辰吾ジラ

13時間 ベンガジの秘密の兵士の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

3.8
濁流のように崩される恐怖

2012年リビアで発生したアメリカ領事館襲撃事件をマイケル・ベイ監督が映画化。

あのマイケル・ベイです。
破壊と虚構の請負人であるマイケル・ベイですが、「ペイン&ゲイン」に続き実話を映画化。エンドロールでは「ペイン&ゲイン」同様に実在した人物の現在を写真にて紹介する手法が取られているが、CIA局員の中にはモザイクが掛かっているなどよりそのリアルが浮き彫りにされる。

視点はアメリカ側に置かれ被害者意識の中に生まれる英雄譚と美化された兵隊と希望の描き方、人間賛歌的な側面は同監督の「パールハーバー」を想起させ、さらにリドリー・スコット監督の「ブラックホークダウン」も思い出すことになる。

しかしそんな美化された英雄譚の中でもクライマックス後に訪れる安堵以上に現代的戦争や紛争の後に訪れる掴むことの出来ない虚無感に似た平和への距離感を感じてしまう。「この国は大丈夫だろうか?」希望を与えようとするセリフも無責任に響いてしまう。

今作最大の魅力は事件発生してからのなし崩しで始まる濁流化していく武装勢力の侵食であろう。画面上ではフッと決壊したところからとめどなく押し寄せ、銃が乱射される後戻りの出来ない非日常性と閉鎖空間に追い込まれる恐怖がノンストップで描かれるので否が応でもその世界へのライドを強要されてしまう。これをマイケル・ベイ流のクリアな映像とスローの多用と、そして画角的な格好良さの追求が魅せるスタイリッシュ性が堪らない。待ちわびたマイケル・ベイ作品である。今回はカオス化する暴徒と状況に翻弄される兵士たちの描写が、彼のウィークポイントである全体構図の不明瞭さがそのまま混乱した状況へのライド性を増幅させていて功に転じている印象。加えて異国ゆえの言葉の通じない恐怖、敵味方の識別がつかない恐怖、信じることの出来ない恐怖がドドドっと画面からプレッシングしてくるのだから面白い。そしてベイ監督お得意の大破壊を抑えていて、航空支援が皆無な状況となり「ザ・ロック」のクライマックスのような展開は意図的に排されている。だからこそ迫撃砲のようなアナログな兵器の描写のスタイリッシュ性が大いに際立っている。

「ペイン&ゲイン」のようにスペクタクル性を意図して抑えたことにより、クリアな映像とカーチェイス含めタイトな演出が良い方向に向いていた。それが「ペイン&ゲイン」同様にDVDスルーにされ、さらにそれが公に知られていない事案であることも皮肉ばっている。

苦言を呈するならアメリカの被害者意識や兵士たちの美化以上に導入部の鈍化。折角のライド性ある描写が決まっている中、この序盤は蛇足。最近では「MAD MAX 怒りのデスロード」「シンゴジラ」のような人物の背景を描かない選択や導入部の説明を排し、最低限度の設定反映のみで描いたならよりスリリングな展開が生きていたと感じる。