みかんぼうや

ヒトラーの忘れもののみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
4.0
第二次大戦後、デンマークで起きていた残酷な史実を描いた作品。あまり前情報を入れず観たので、デンマークとドイツの国を越えた絆の美しい話か何かかと思っていたが、そんな甘いものではない。確かに一つの形としての絆は描かれているものの、現実は遥かに厳しく、ただただ胸が苦しくなる作品でした。

この物語が描くのは、ナチスが埋めた大量の地雷を、捕虜となったドイツ兵に除去させたという史実。そして本作に登場するそのドイツ兵たちは、まだまだ若く未来ある少年兵であるということ。そんな話を聞いて「自業自得」と考えた人たちも、おそらく当時はたくさんいたのかもしれません。しかし、私たちは歴史、そして時に本作のような映画を通じて、第二次大戦下のドイツ人=完全悪、といった一辺倒な物の観方や捉え方をしてはいけないことを学んでいく。

この少年兵たちは、ナチスが犯した罪やホロコーストの事実をしっかりと頭の中で理解することなく、自分の意志もままならないまま、ただ戦場へ駆り出されていたのかもしれない。その少年たちが敗戦後に、ナチスの悪行の後始末で、その未来ある命を次々と落としていく。

この地雷処理を終えたら祖国で家族とビジネスをやりたい、祖国の復興のために生きたい、という想いを語りながら、地雷処理中のミスによる爆発により手足を失い、命を落とす少年兵たち。思わず「お母さん!」と泣き叫ぶ姿はまだまだ子ども。そんなシーンを観る度に胸が締め付けられる、敗戦国ドイツ側の戦争の悲劇。

そして、ドイツ人=完全悪、ではないのと同様、それまで虐げられたデンマーク人=善ではない。少年兵たちに指揮命令を下すデンマーク人たちの中にもまた、本作主人公のラスムスン軍曹のように厳しくも少年たちの将来を憂い少年たちの命を守ろうとするものと、少年たちを性処理の奴隷として使おうとするゲスな人間たちがいる。森を見て木を見ずになってはならない。

本作は最初につけられたタイトルが「地雷と少年兵」で、その後、今のタイトルになったようですが、映画の内容をよく表した非常にセンスのあるタイトルだと思いました。その忘れ物とは、戦争により残された地雷であり、その愚かな行為が結果として戦後にも多数の若く尊い命を奪ったという事実。大戦後の戦争が残した悲劇を描いた傑作と言える作品でした。
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