Mikiyoshi1986

アンドレイ・アルセニエヴィッチの一日のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

3.3
本日12月29日でちょうど没後30周年を迎えたアンドレイ・アルセニエヴィッチ・タルコフスキー監督。

長らくソ連当局の厳しい検閲によって映画製作を阻まれ続けた彼は84年、一人息子と母親を泣く泣く祖国に残したまま、妻と共にパリへ亡命。
そして86年に遺作となる「サクリファイス」を撮り終え、闘病の末に亡くなるわけですが、
フレンチSFの名作「ラ・ジュテ」でも知られるクリス・マルケル監督が病床に伏せるタルコフスキーに立ち会い、出国を許された母と息子との5年ぶりの再会をこのドキュメンタリーに収めています。

そして「僕の村は戦場だった」から「サクリファイス」までの7作品と、ロンドンで演出したムソルグスキー歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」を交えながら綴られる彼の軌跡。

妻が熱烈キッスで我が子を迎え入れ、痩せ細ったタルコフスキーが悦びいっぱいに成長した息子を抱き寄せる光景は真に迫るものがあります。

彼が作品に投影し続けた木々や水、火、霧、風などの自然的エレメンツから、
鏡や夢、宗教画、浮遊といったプロットまでを加味し、晩年の彼を考証していく構成は大変見事。

そして一番の見所はなんと言っても「サクリファイス」のクライマックスに用意された約9分間に及ぶ長回しシーンの撮影風景でしょう。
重苦しい作風とは裏腹に、実にエネルギッシュで快活に現場を指揮し、笑いを絶やさず終始和やかムードで進行していく撮影の舞台裏はとても微笑ましい。

彼の長編デビュー作「僕の村は戦場だった」が少年と木で始まり、遺作「サクリファイス」が少年と木で終わるとか、これが本当に意図したことなら凄すぎますね。
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