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母ギーラーネのアリのレビュー・感想・評価

母ギーラーネ(2005年製作の映画)
3.8
イランイラク戦争のさなかで、地方に暮らす素朴な女性ギーラーネは息子を戦地へ送り出そうとしていました。
テヘランから避難してきた身重の娘は、残してきた夫を心配して様子を見に帰りたがっており、ギーラーネは娘夫婦が揃って来てくれれば自分も助かると考え、娘とともにテヘランへ向かいます。

男たちが戦地へ送られているとはいえ、空襲などもなかった村から都市部へ近づくに連れ、避難者は増えるばかり、テレビの中の悲惨な状況にショックを受けるギーラーネ。
ただ日々を働き、家族のことばかりを考えているような「お母さん」の目を通して戦争に破壊される日常、たとえ戦争が終わっても終わらない悲劇が映し出される作品です。

単純な話に見えるのですが、戦争の中でも「うまくやってる」ひとびとを登場させたり、逆に日常を生きようとする姿を微笑ましささえ交えて描いたりすることで、ギーラーネの悲しみを際立たせていく作りが巧みなんですよね。

息子の面倒をみてくれる「嫁」を一方的に求めているようないかにも昔風のお母ちゃんなので、私などは価値観面でうーんとなるところもあるのだけど、そういう人物像だからこその痛ましさが伝わるように描かれ、それでいて「カワイソーなひと」という視線ではなく、生き方への敬意が感じられてきます。

徹底したリサーチとバランス感覚による秀作で少し前の作品ではありますが、再見できて良かったです。
バニエテマド監督の作品は、もっと最近作も紹介されてほしいです!
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