Nekubo

マネーモンスターのNekuboのレビュー・感想・評価

マネーモンスター(2016年製作の映画)
4.5
6/2に六本木で行われたジョディ・フォスター監督による舞台挨拶付きのジャパン・プレミアにて。

ジョディ・フォスター監督作品。第四作目。キャストに名を連ねるのはジョージ・クルーニーやジュリア・ロバーツ、ドミニク・ウエスト他。

【あらすじ】
全米で人気を誇るTV番組"マネー・モンスター"は司会者のリー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)による金融情報番組。今日もリーは番組収録の為にスタジオでスタンバイをしていた。スタジオ内のセット裏では長年をリーと共に仕事をしてきた番組ディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)が見守る。

収録は始まった。いつものように、リーによるトーク&パフォーマンスがセット内で披露されている。そんな時だった。収録中のカメラの中に配達人の装いをした男が映り込む。パティを含め、番組スタッフは彼を演出上のキャストだと思い込み、そのまま収録を続けていく。

遂に男はセットの表へ。トーク&パフォーマンスを続けるリーの前に姿を表すのだった。リーも彼の事をキャストだと判断し、話し掛けるように近づいていく。しかし、男は番組の用意したキャストではなかったのだ。男は近づいてくるリーの前で拳銃を突き出し、天井に向かって発砲した。

リーを含め、番組スタッフ一同が騒然となる。

男は言う。「カメラは回し続けろ。TVを観ている全員に聞かせるんだ。リー・ゲイツは俺達に嘘をついている。お前を信じて買った株で、俺は一瞬のうちに大金を失った。こんなことが許されるのか?」と。

"マネー・モンスター"の番組収録は、瞬く間に生中継のリアルタイム・ショーと化した。大金を失った男の人質となったリー・ゲイツをはじめとした番組スタッフ。彼等の運命と、株によって大金を失った男によって引き出される株の闇を、TVを前にした全米の視聴者が見守る。

【感想】
本作は株における金銭の動きや情報操作による社会問題をテーマとした作品。その為、台詞や映像から伝わる情報量がそれなりに多い。とはいえ、本作の物語が持つメッセージ性というのは非常に分かりやすく、ある意味で身近なものだった。

本作に登場する、本当の意味で主役となった男は株によって一瞬のうちに80万ドルという大金を失った。彼の出自や今置かれている生活環境についてはネタバレの関係上明かさずにはおくが、所謂どこにでもいる普通の男だ。それは彼がリー・ゲイツを人質に取る瞬間やその後の振る舞いのたどたどしさ等からも充分に伝わる。これまで普通に生活をしてきた男が大金を一瞬のうちに失い、犯罪に手を染めてしまっただけの事である。

ある意味、株に限ったことではなく、例えばパチンコで金をスッた男や、それこそTVゲームで必死こいてハイスコアを出したデータが何かの拍子に消えてしまったゲームオタクの物語に置き換えても成り立つテーマなのだ。

人の価値観は様々である。だからこそ、人はどのタイミングで喜怒哀楽を表現するのかは分からない。それは犯罪だって同じことではないだろうか。今の世の中、どんな理由で人が犯罪に手を染めるかなんて分かったもんじゃない。本作の舞台であるアメリカだけじゃなく、日本に置き換えたってそうではないだろうか。現代の日本でも某アイドル殺傷事件等、理解し難い理由による事件が後を絶たない。

"誰にでも起こり得る"

本作のメッセージ性はココにあるのだと思う。本作に描かれるような事件は、いつでも、どこでも、誰にでも起こり得るのだ。だからこそ大金を失った男は番組スタッフにカメラを回し続けるように命じた。"今それが起きている"ということを視聴者に伝えるためだ。

物語が進むにつれ、番組ディレクターのパティはいち早く彼の意図を理解した。人質でありながらも彼を主役に捉えたリアリティ・ショーとしてカメラワークやリー・ゲイツに指示を入れ、演出を付けていく。本作を観ている我々も次第にそのリアリティ・ショーを体感していくことになる。

我々観客は、サスペンス映画を観ていたと思ったら、いつの間にかリアリティ・ショーを観せられている。いつの間にか"マネー・モンスター"という番組の中で起きた事件の視聴者となっているのだ。しかも、カメラワークに関して言うならばPOVの手法すら使っておらず、至って普通に撮影されている。表面的な技術に頼らずにここまでの臨場感を演出できているというのは驚くべきことである。

演出、カメラ、音楽のキレの良さと、そして本編時間約1時間40分という完璧な尺の映画が、ハリウッドスターであり監督としてのジョディ・フォスターによって生み出された。

ジャパン・プレミアにおいてジョディ・フォスター自身は本作のことをこう言っている。「この映画は本当に心から大好きな作品だ。現代の我々の今生きている世界の物語だ。」と。

これまでジョディ・フォスターが監督した中でも群を抜いて面白いことは間違いないし、キレの良い作風からも彼女の個性が一番出ているのではないかと私は感じている。ジョディ・フォスターらしい作品である。

"現代の我々の今生きている世界の物語"

この一言にすべてが集約されている。
Nekubo

Nekubo