菩薩

カーネーションの卵の菩薩のレビュー・感想・評価

カーネーションの卵(1991年製作の映画)
4.2
何一つ奇を衒っている事もなく真摯に自らの幼少期の戦争体験に向き合っているカチっとした傑作。北イタリアの田舎であろうと容赦なく忍び寄る戦争の影、敗戦間近となりいよいよ混迷の度合いを増す周囲の情勢を切り取る幼き目。ファシストに加担する父、孤独を恐れるあまり実の妻を殺し食べたと噂される老人との交流、森の奥に潜む様に暮らすユダヤ人に迫るナチスの手、不時着した敵国兵に恋した姉の悲しき末路、道端で無惨にも殺されていくパルチザン、などなどエピソードてんこ盛りであるが、豊かであるべき少年時代が暴力に侵略されていく様と、それでも変わらずあろうとする人々の営みとがタルコばりの映像美と共に描かれていく。彼にとって信頼に値するべき大人達は駆逐され、親であろうとも大人とは=嘘をつく存在へと認識が変化していく。遂には言葉を失い、かつての敵兵の前で媚びへつらう親に向かって飴玉を噴き出す、ただその反抗的な態度が自らも子を持つ身へと成長した彼を反面教師的に育てあげたのだとする終わりに確かな希望がある。これは簡単に埋もれていい様な作品では無いと思うが…。一応、フェリーリ、ベルトルッチ、エットーレ・スコラ、ベルイマン等、錚々たる面々が絶賛、との事です。
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