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ベイビー・ドライバーの映画を見る猫のレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
3.7
評判が良すぎる映画は大抵、すごくハマるかハマらないかのどちらか。
残念ながらこちらは後者だった。
しかし間違いなく言えるのは、冒頭から一仕事終えるまでは最高にクールということ。
ヒロインとの恋が始まるシーンなんて、涎が出そうなくらい素敵。
此方は犯罪映画もカーチェイスも美男美女の逃避行も大好物。ということで途中までは期待値MAX観賞だった。
しかし話が続くにつれて、どうしようもなく感じたのが強烈な違和感だ。
この映画、全然、痛快じゃない。
何でだ???
で、最後に気づく。 
「あ、この主人公、運転嫌いなんだ」
彼にとって車の運転は、両親の死の原因、にもかかわらず神に与えられた皮肉な天賦の才、故に犯罪者の仲間入り。 
彼が愛するのは音楽で、車はミュージックボックスの代わりに過ぎない。
いやむしろ、昔から今も自分につきまとう、悪夢のような車のエンジン音やクラッシュ音から逃れるための防衛手段なのだろうか。
嫌々ながらも車を走らせる毎日を、彼は終わらせたいと思ってる。
だからプロ意識もない。
無論、犯罪組織のドライバーは、彼にとって望んだ仕事ではないからだ。
だから猛スピードで、逃げる。
「僕が、運転する」
そう言い切った仕事を白紙にして、彼は「足」を使ってあっさり運転席を離れてしまう。
助けを乞うのは白紙にした仕事先のボス。これはまさにbabyといった彼の所業を救うのは一目で恋に落ちたウエイトレスだ。
ラストにかけて、彼が車を運転していないのは象徴的。そう、ようやく彼は「運転」から逃れることができたのだ。
彼のすべてを(何故か一度デートしただけで)受け止める彼女の聖母のような優しさと包容力が、ようやく赤ん坊を醒めない悪夢から解放する。
しかしこの筋書き、女から見ると相当都合良すぎるという辛い意見。
普通の女性ならまず、ついていかないから。怖いわ。
普通のボスならまず、助けないから。昔の自分を思い出した?知るか。
鞄返してくれただけで擁護しないから。車返せこの野郎。
男の甘さを許容する、親(ボス)、女、そして社会が見せる素晴らしいまでの包容力は、彼がbabyであることを一切責めない。
いやむしろ無邪気で奔放で善悪を知らない赤ん坊というより、中途半端に成長したyoung boyという感じ。
一般市民の心配する素振りを見せたのが善か。十年も走り屋をやっているのだから、君の凶器のような運転で、被害にあった人間は探したら幾らでもいるだろうに。
本当は優しい、か。
長年連れ添った愛する女が死んで、最後には悪と化し、落下死した男の心にはそれが無かったということか。
うーん。
カメラワークやカーアクションは最高で、演出も花丸なのに、人物描写と脚本の浅さが際立って仕方ない。
かといって気楽に見るには、キャラクターが割りきったステレオタイプ化されたおらず、ハードボイルド映画として乾ききってもいない。つまり中途半端。
批判的なレビューになってしまったが、期待値が高く、肩に力が入りすぎていたのだろう。
個人的な好みと読みに依るところが大きいだろうし、私が石頭すぎるだけなのかもしれない。以上。