TAK44マグナム

ベイビー・ドライバーのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)
4.6
音楽と映像のシンクロ


「ショーン・オブ・ザ・デッド」のエドガー・ライト監督作。
ずっと温めていたカーチェイスをやりたくてアメリカで撮影していますが作品がもつ雰囲気は、監督の主戦場である英国ぽさに溢れています。
そして、いままでのエドガー・ライト作品の主成分であったホラー要素が皆無なのも特徴ですけれど、オースティンパワーズのマスクを被るシーンで、「ハロウィン」ネタ(それはマイケル・マイヤーズだろう!)をちゃんとギャグとしてブッこんでくる辺りは流石です(苦笑)。


主人公「ベイビー」は、子供の頃の事故が原因で耳鳴りが鳴り止みません。そこで好きな曲をため込んだiPodで、いつも音楽と共に生きている日々。
曲を聴いているうちは耳鳴りが気にならないのです。
そんな彼の「仕事」はゲッタウェイ・ドライバー。つまり、「逃し屋」。その天才的なドライビングテクニックを買われ、とある借金の返済のために犯罪者ドクに言われるがまま、強盗犯を逃し続けていました。
しかし、馴染みのダイナーでウエイトレスをしているデボラとの出会いが彼の運命を変えてゆきます。
やがて、取り返しの付かないアクシデントを引き越したベイビーはデボラを連れて、ドクや警察の手から決死の逃走に挑むのですが・・・


今回、エドガー・ライトは現在までの監督作とは一味違ったアプローチをしていますね。
音楽を上手に使うのは他作品でもみられたテクニックですが、ここまで・・・というか全編とおして音楽が鳴り続け、そのリズムに合わせて登場人物が動いたり、車が走ったりするのは、実際に観てみると凄いことしているなあと誰でも溜息が出てしまうのではないでしょうか。
それほどまでに、ただただ感嘆。カッコイイ。

レッドのスバルWRXが激走する冒頭からしてアドレナリンがビュービューと音をたてて出るようです。
日本車が活躍してこんなに嬉しいのは「ワイルド・スピードX2」以来かもしれません。

物語としては、とりたてて新味があるものでもありませんが、湿っぽい要素も取り入れつつ、全体的なテイストはカラリとしています。
クライムアクションとしては、銀行の襲撃場面などは殆ど描かれず、あくまでも逃走するシーンがメインになっているので、そういった意味ではカーチェイスに特化した体裁。
とは言うものの、実質的にベイビーが天才的なドライブをするのは銀行強盗と現金輸送車強盗からの逃走シークエンス、その二箇所のみなので中盤以降はカーチェイスの印象がだいぶ薄くなります。

監督自身は好きだと公言している、ベイビーが自分の足で走って逃げるシークエンスは、車ばかりでなくアクションのバリエーションを増やしたい意向があったのかもしれませんが、個人的には最後まで車での逃走に拘って欲しかったですね。
なにしろタイトルからして「ベイビードライバー」ですから。
その代わり、クライマックスでは車を使ったドつき合いに発展しますけれど・・・

また、状況や人物を過剰に説明するようなことはせず、かなりスマート。セリフも説明口調を避けていて、シナリオの練度も高いのでは、と思いました。
ケビン・スペイシー演じる元締めドク(まだ幼い息子の行く末が心配・・・)の最後の行動についても一言二言のセリフで察することが出来ます。
ただ、デボラがどうしてベイビーに惹かれたのか、そこが割と曖昧に誤魔化されているような気もしましたが。

キャスト陣では、物語を引っ掻き回す存在であるバッツ役のジェイミー・フォックスが出色。
とにかくこの男、ちょっとでも気に入らないとすぐ銃をブッ放して殺してしまうようなデンジャラスなキチガイなので、出来れば人殺しなどとは関わりたくないベイビーと対をなすキャラクターとして暴れまくります。

他には、世界的バンド「レッドホットチリペッパーズ」のフリーや、いまやパニッシャーを演じている男ジョン・バーンサルなども出番は短いながら出演。
犯罪映画なので、ちゃんと強面マッチョからセクシー系まで網羅、ついでに美男美女も完備という、バランスのとれた鉄壁の布陣が頼もしい限り。


刻むリズム、流れるメロディ・・・この逃走劇に乗り遅れちゃならない!
各方面で絶賛されているだけはあり、間違いなく2017年を代表する一作だと思います。
出来るだけ音響の良い劇場での鑑賞(もしくは、ソフト化された際には自宅の音響設備に投資して)をオススメ致します。


劇場(イオンシネマ海老名)にて