バービーのぴんゆかのレビュー・感想・評価

公開直後、米のバービー公式がやらかす前に視聴。
これは現代の平塚らいてうだと思った。
正直Oppenheimerを見るのが今シーズンのメインで、Barbenheimerと売り出されてたのでおまけで見た感じだったのだが、これはぜんぜんおまけではなくメインディッシュだった。

広告だけ見ると子供はもちろんかつて女の子だった世代、今のミレニアムやそれより少し上の代にターゲットを当てて単にかつての夢を見せにきてるのかなと思ったが、とんでもない。これは壮大な意見と提案を可愛さにくるめてぶつけにきた作品だ。

かつてのバービーはある種、女性にとって憧れ、もしくは現実からの逃避としての存在であり、だからこそよりこうあれば幸福、勝ち組というような肖像を体現していたと思う。
そういう意味で作品内ではバービーのかつての姿への回想と反省、そしてバービー制作へのリスペクトを感じた。
数多のポリコレ作品とは違い、ごく自然な形で同じ名前のバービー(ケン)であっても一人一人人種やサイズ感を含む異なる容姿をもっていたり、それでいてみんな貼り付いたような笑顔ではあるもののなんとなく平和に仲良くしているというのは、人形の世界で理想論だからとはいえナチュラルにみんな違ってみんないいを体現していたといえる。

加えて人形の世界に"人間"としての感情や複雑な現実が入ってくることによってそんなに上手くはいかなくなるという構成、そしてバービーの世界がこんなに素敵だから現実はさぞ楽しいと思ったのに現実の方が酷いじゃない！というバービーの言葉は実際のところはそんな一辺倒の理想を掲げるだけで変わるような容易い世の中ではないのだと短絡的な活動家に訴えているようにも捉えうる。

現実での女性はいつも嫌われてるし女性も女性のことが嫌いじゃないとか女性はいつも若く、綺麗でいなければならないという発言はこれまでの女性性に求められてきた、押し付けられてきた理想像がいかに矛盾と不可能性を孕んでいたかを改めて知らしめ、またハリウッドの前線に立つ女性達が言うからこそ説得力があるものだ。

平和で調和の取れたバービー世界がケン率いる男性性が権力を持った瞬間に荒々しく、戦争好きで女性を下に見られたり風俗嬢のような振る舞いをする世となるというのは女性性の世界は平和であり、男性性の世界はリスクや競争にとりつかれた世界だという、賛否両論呼びそうな大分強い皮肉と批判を持っている。

しかしながらかつて女性政権の王朝や手腕を振るう優秀な女性が世界で少なからず存在したものの近代以降、そして現代でもいまだに政治家やトップを走る人間の過半数を男性が占めるという状況はまるで「女性はかつて太陽であった、今は月である」という平塚らいてうの言葉をも想起させる。

スポーツの事など女性には何にもわからないかのように語りがる男性やそれに対し洗脳されたかのようになる女性という図も女性製作陣ゆえに思うあるあるなのだろうし、対女性で自信の無い男性が女性に歯向かうようになるというところもまた、現実のミソジニストもこうなんだろうなと思うところである。(逆も然りだが)

後半なんとなくしつこさやだれていると感じる箇所もあったが、それを踏まえてもフェミニズムを扱うにはバービーは完璧なテーマで、またその扱い方も他作品に比べれば押し付けすぎず受け手に考える余地をまだ与えるものだったといえよう。またそれを実現させたマーゴットロビー率いる映画制作会社は小さいながらもこれまでにもpromising young womanなど、フェミニズムを訴えかける巧妙でかつ作品として興味深く楽しめる映画の数々を手がけており、脱帽の一言で、今後も期待が持てる。

今作では少し男性を下げて描いていると人によっては思えなくもないところと、最後ただのケンとして生きていいなどと言われているもののケンの存在はバービーと比べたらフォーカスされないし
立場はあやふやなので中立とはいえないし、例えば体の性が男性ででもバービーが好きな子供がこれを見たらどう思うんだろうという疑問点はある。
しかし元々バービーが女の子達の希望としてできたのだから最後まで女性礼賛で行くという強い意志が感じられ、世の女子達を励ましに行くというスタンスのようなのでこれはこれでいいのかもしれないし、男性が泣いたっていいとするところや、変化が訪れるのが人生だよと言うところは普遍的に誰しもに固定観念と戦う勇気をもたらすものだと思う。

ちなみにこんなにダサくて冴えなくてカッコ悪いRyan Goslingは初めてだしよくこんな役受けたなと。
男性が戦うシーンの曲がネットでミーム化してる、格闘ゲームのキャラを選ぶシーン”choose your fighter”なのも製作陣の遊び心が爆発してて笑った。