Masato

バービーのMasatoのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.8

映画史に残る傑作

世界的に有名なマテル社のバービー人形が実写映画化。最初はどんなアホ映画になるんだろうと想像していたが、グレタ・ガーウィグがとんでもない映画にしてしまった。2020年代を代表する映画として確実に映画史に残る作品になるであろう。今年ナンバーワンの傑作。

「ワンダーウーマン」で「トイ・ストーリー」な映画。バービー人形の世界観を利用した至極アホ極まりないコメディは存在しつつも、アダム・マッケイばりの強烈なポリティカル要素をもってミソジニーな現実社会を徹底的に風刺し茶化していく。超シニカル。その数は一回見ただけでは把握しきれないほどに膨大で、秒単位で挿入してくる息をつく暇のないスピード感。ミソジニー、家父長制、Toxic Masculinity、女性差別、アンチポリコレへの茶化しなど列挙するととんでもないことになるのでとにかく見て欲しい。

バービー人形がもたらした夢や功績と逆に良くなかった部分までもありのままにすべてを描いていき、現実社会までもそれに内包していく。特に女性自身が抱えてしまっている問題がバービー人形のもたらした罪と繋がっていく。例えば完璧な容姿やステータスからなるルッキズムや、自分はこうでないと駄目だと型にはめてしまうアイデンティティの欠如による自己嫌悪(鬱)、老化を嫌悪するエイジズムなどが理想とされすぎたバービー人形の闇の部分として描かかれているところが良くて、そこから自分が自分らしくいられるありのままの自分を模索し肯定していく自己肯定へと繋がるのが最高。

またバービー人形の世界観における男性(ケン)の扱い方にも言及していき、ケンが何者でもないただのケンでしかなく、それは現実社会の女性の扱い方と同じであったことと重ね合わされていて、男性キャラのほとんどが超バカには描かれている(死ぬほど面白い)ものの、相互リスペクトの偏りのない物語でもあった。彼らもアイデンティティを喪失していたからこそ有害な男性性に侵されたことを描いていて、自己の内省に目を向ける様が的確かつ素晴らしい。結局は女性も男性も関係なく自己認識と肯定の物語へと帰結する秀逸さ。

でも最後にはしっかりとバービー人形が与えてくれた夢や希望、感謝が込められていてこの集大成感が大感動。バービー人形の総決算でありながら、現実社会のこれまでの総決算でもある。それでいて「あなたはあなたのままで美しいよ。何にも囚われず自分らしさを探して」と背中を押してくれる。色々なものに縛られすぎて自分が何者か分からなくなった人には突き刺さりすぎる。あまりにも素晴らしすぎて胸がギュッとしめつけられる。

女性ならば共感を呼び、男性ならひたすら学びになる映画となっていて、男性の私には学ぶ要素が大いにあったし、無意識にそうしてしまったことへの反省の機会を得られる。自分の愚かさに気付くこともありながら腹を抱えて笑える。こんなコメディを待っていた。

純粋なアホコメディから毒見の強いシニカルなコメディ、そこからシリアスにドラマにへとシームレスに繋がれていく映画としての出来の良さも凄くて流石グレタ・ガーウィグ。コメディの種類もバラエティ豊かでメタ的なものも沢山あるし、ワーナー自社作品を使ったものもあるので面白い。もちろん政治的なものもある。

キャスティングも見事。マーゴット・ロビーはもちろんのこと、ライアン・ゴズリングも最高すぎた。こんだけ奇天烈な世界観なのに演技力ひとつで雰囲気をすべて変えていく。マーゴットはプロデューサー、フェミニストとしても着眼点が鋭くて凄いし、売れた始めた直後にBIMBOって言われていたのを軽く自虐的に挿し込むのも勇気があって良い。
他にも面白いカメオ出演もあるのでサイコー。俳優を知っていると面白い小ネタもあって本当に笑えた。

一番注目されているかもしれないサントラも公開前から聞きまくって最高だった。Dua LipaやLizzoのレトロなダンス・ナンバーからCharli XCXやAva Max、Pinkpantheresなどの現代ならではのエレトクトロニックなものまで目白押し。そしてもはや御大的な存在感の大好きなビリー・アイリッシュが哀愁とエモーショナルの洪水みたいなピアノ曲で映画をキュッと締めてくれる。

こんなとんでもない映画化企画からこんな大傑作が生まれるとは思わなんだ。何もかもが煌めくようなエネルギッシュさを持ち合わせた革命的な映画。2020sを代表する映画になるだろう。

You are so beautiful.



(追記 鑑賞後に感じたことを随時備忘録的に…)

・ 重役ポジに男性しかおらず、女性は秘書というなの受付が最高っていうのが、もう日本だと当たり前の光景で笑った。ガラスの天井。国がこれだもんな日本

・ 自分の存在価値を見いだせない男性が有害な男性性によって存在価値を見出すっていうの…やっぱりツイッターによくいるミソジニストな男性みてると超的確じゃんって思った。

つまり女性を自分の支配下に置くことによって自分の存在価値を見出してしまうことを知ってしまう。これは現実過ぎて面白い。
ケンが家父長制に憧れてしまうの背景は、日本やアメリカでもよくある無差別加害の男性の犯行動機に似ている。「俺がこんなことをしたのは女のせい」。女性という仮想敵を作ることでしか自分を確立できない。

・ (鑑賞前)キラキラアホコメディ>(前半)男性や男性優位社会をとことん馬鹿にしたコメディ>(後半)男性にも女性にも批評をしていきながら手を差し伸べるドラマ
という変容があるから、どこかで突っかかって立ち往生してしまうと作品の本位をつかめないまま終わってしまう

・ 序盤に母性を否定しながら、最後では母性を肯定する。本当に意味のないシーンが一つもないなバービー。考えれば考えるほど発見がある。こうして一つの物事に対して肯定も否定もしていくから思想の押し付けがましさがなくコレクトネスな考え方が得られる(でもその分読解力や知性が必要)のが良い。

・ 冒頭のシーンは、これまでの人形に母性が表象とされていたのが、様々な職業のバービーが作られたことで母性が否定され、それが完璧なロールモデルとされすぎたバービー人形の功罪という点で描かれているのか。表面は多様性を表象しながらも、実際は母性を捨て去るほどの完璧な理想を強いられる形となってしまった。

グロリアが「何者でもない、もっと普通なバービー人形が作られるべき」というセリフでも理想を強いられるが故の自己嫌悪が語られていた。冒頭はただのオマージュかと思っていたけども、女性が社会進出するうえで逆に完璧なキャリアモデルを敷いてしまう=強いられてしまっていることへの批判が込められているのか。
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