故ラチェットスタンク

バービーの故ラチェットスタンクのネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

グレタ・カーヴィグの読み方が全く分からないタイプの人間で、『レディ・バード』も『わたしの若草物語』も楽しみにして観に行って、手も足も出ず何も理解できずに帰るのがオチだったけど、今回かなり良い線行ったと思う。嬉しい。

相変わらずハイピッチな会話と展開の合わせ技で、プラスそこに「初めましてこんにちは!」な「バービーランド」の設定まで入ってくるからぶっちゃけ理解しきれてないところは多いけど、それでも主張はしっかり入ってきたので、ポカンって感じはしない。けどまあ、かなり台詞で主張をハッキリ言うのでポカンって感じがしなくてもそれはそうだと思うのだけれど。

まあとにかく明朗で清涼感あるムードで伝え方が直球!「届け!エイっ!」って感じで、一歩間違えれば美談、もしくは欺瞞になりかねないところを圧倒的な視野の広さでもってキッチリ回避しているのでとにかく清々しかった。ユーモアセンスは悉くNot for meだったから純粋に面白いと思えはしなかったけど、わちゃわちゃしてて可愛らしいので不快にはならなかった。

各々の役割が固定化され均質化された「バービーランド」と言うディストピア空間。女性主権で男性は端に追いやられている。現実社会へ行く事でそれが反転。バービーは自身の有害さを突きつけられて沈み込み、ケンは自分が中心になれる社会を発見して舞い上がる。

均質化された、それこそあの娘が言う「ファシズム」的な空間だからこそコロコロと変わってしまうキャラクターたちの思考に無理がない。洗脳されてカチッと思考が切り替わるように描写するのは流石にあけすけだと思うけど、とても竹を割ったような性格の陽性な映画だから無理がない。トンマナが一貫していて納得できる。どうあれグラデーションが生まれるのはあのラストからなのだろう。裁判所で女性主権体制こそ回復したかもしれないけれど、ケンとバービーのわだかまりの解き方からしてあの世界のルールが今後変わっていくのだろうという補完は容易だと思うし。

ケン(ライアン・ゴズリング)周りの描写が秀逸。ジム、扇情的なメディア・広告からマッチョイズムにハマっていく姿は一見グロテスクだが、自分のような存在が中心になれる社会と出会ったことへの素朴な喜びを真正面から映すので決して単なる「男性批判」に落ちない。(これはどちらかと言うとメディア批判なのだろうと思う。)張り切って本を集めちゃうとか、ちゃんと愛らしさがある。

役割の固定化ゆえにバービーの気を惹くことでしか自分に価値を見出せない。そういった先入観を埋め込まれてしまったことを一方的に断罪はしない。小馬鹿にすることもその性質を利用して絵的に盛大に遊ぶこともしているけれど、最終的には(これはバービーたちもだが)ケアを必要とする存在として取り扱う優しさがあるから不快感がない。

あとバービー視点で考えるべきことは色々あると思うけどグレタ・カーヴィグの豪速球を追いきれてないのでキャッチできたとこだけで止めておきます。

クライマックス、バービーが人間の身体を感じ取る場面が素晴らしい。肉感はあるけど余計にセクシーにしない清涼感ある描写で◎

色々人によって身にしみるところは多そう。私は姉と母と母の知り合いのおじ様の前で『宝石の国』の身体破壊描写について目をバキバキにして語るタイプの人間なのですが、男性の悪癖というよりは普通に「文化系の趣味を持つ人の悪癖」として気をつけよう、と思いました。でもそもそもマンスプレイニング以前に誰が話しても興味を持って聞けるかはその人の話術とかによるところが大きいと思うので、その辺の描写はちょっとなあとも思います。