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バービーの06のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.2
バービーとはなんなのだろう?女子向けの夢を詰め込んだお人形?世界中で愛されるヒット商品?女性性を売り物にしてフェミニズムを50年遅らせた悪の象徴?
その答えが、この映画には詰め込まれていた。

一言でいえば、理想社会に生きる人形バービーが現実と関わることで社会の歪さを知り、それでも自分が選んだ人生を生きる決意をする物語である。

もう、はっきり言ってボロ泣きした。
僕は子供の頃バービー人形を持っていた。きれいなドレスを着せて、他のお人形とお友達ごっこをさせて、空想の世界に浸っていた。そんな幼少期の楽しい思い出を塗り替える勢いで大号泣した。今後人にバービーの思い出を聞かれると、この映画のことしか話さないだろう。そのくらい後半ずっと泣きっぱなしだったし、エブエブに似たセラピー映画の香りを感じた。

なぜこの映画がそんなに心に響いたのかを考えてみると、理由は2つある。

その1、夢を語る物語だったから。
バービー人形はスタイルが良い美女ばかりだ。それは確かに女性の性的魅力の基準を決め、多くの人を苦しめた。映画内でもそれについて言及されている。しかし同時に、女性が職業の自由を獲得して、自分らしく活躍するという夢も語り続けてきたのだ。大統領候補になったバービーが最初に登場したのは1992年らしい。現実世界では未だ女性大統領は生まれていないが、バービーは約30年前から準備万端だ。その人形に込められた希望に思いをはせながら後半の皆が目を覚まして行くシーンを見ると、もう泣けて仕方がない。

理由その2。
メッセージ性が強いからだ。物語の中でわざとらしい程強調して語られる「女性らしい女性像」「男性らしい男性像」。特に後半、男たちの奴隷と化した前時代的女性と、女にいいように使われる自己顕示欲が強い男性のシーンが一番カリカチュア的だろう。

でも物語の結論は「自分らしくあれ、何者でなくてもいい」で締められる。

バービーは恋愛をしなくてもいい。ケンはバービーを口説かなくてもいい。「女の子だって何にでもなれる」というコンセプトで生まれたバービーなのに、「何にもならなくていい」と物語は語る。自分が自分であること。それだけが必要なことだと。

世の中いろんな人がいる。それこそバービーのようなルッキズムの具現者から、バービーを憎むフェミニスト。家父長制に囚われた男性に、仕事を第一に考えるキャリアウーマン、個性がない量産系の女子まで。そんな万人に向けて「自分が何者だろうと、それでよい」と許しを与えるのはエポックメイキングな救いだ。「何かにならなきゃ」が蔓延して生きづらいこの世の中で、ただ自分で居ることを認めるのは存外難しい。それをこの映画はバービーを通して語ってくれた。理想を体現しているのに量産型でもあるバービーが語るからこそ、意味があった。

勿論映画としてそれはどうなの?みたいなところも色々とある。首脳陣がコミカルすぎたとか、ケンのダンスシーンながいな!とか。ラストシーンが結局とある方向性の強調で嫌だなあとか。

でも映画に出てきた多種多様なバービー達を思い出すだけで、ルッキズムの呪縛からはちょっと開放される。

バービーでもケンでもないただの「自分」を愛そうと思えるのだ。



以下余談。
僕は「プラダを着た悪魔」が好きだ。でも一つだけ不満がある。毎回あの映画を見る度に思う。
「いくらダサくても、アン・ハサウェイってだけで勝ち組じゃん!!!」
でもこの映画はその部分にメタ的なセルフツッコミが入る。

バービー「私なんてもう美しくないし……」
天の声 「マーゴット・ロビーが言っても説得力がない」

よく言ってくれた!!ここだけで120点あげたい。
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