カルダモン

バービーのカルダモンのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.1
※※偏った感想です※※

老いもない。飢餓もない。
死もなければ誕生もない。

自分とはなにか。
夢のような世界は夢なのか。
ここではない外部の現実世界で、
じぶんで遊んでいる誰かがいる。
いつのまにか自分の体に起きていた体の変化によって、自分の姿を見つめ直す。

まばゆいピンク色の世界から飛び出して、
くすんだグレー色の現実世界へ。

人間が人形を演じる。
となると、どうしても感じてしまうディストピア。人間味を剥奪するようなピンク色が暴力的にさえ映る。元は人間だった誰かがバービー人形にさせられているのではないか、などと突飛な考えも浮かんでしまう。
なんなら観終わったあとで私がまっさきに考えていたのはマーゴット・ロビーとライアン・ゴズリングを並べて遊んでいる監督グレタ・ガーウィグの姿で、この映画自体が人形遊びのように思えてしまうことにゾッとしていたのでした。
当然グレタ、ガーウィグにそんな意図があるわけないのだが、いくらでも読み解き可能な映画なので、視点や角度を変えればその分だけ解釈が生まれてくる。自立であったり社会進出であったり、男女格差、人種、職業、ジェンダーなどなどテーマを絞って見直せば色々と見えてくる。あるいは同じ名前で姿の異なるたくさんのバービーやケンも、近年の映画で乱立するマルチバースとしても捉えることが出来るかも。ただ、やはりこの映画に限らず近年の作品は様々な視点を織り込み過ぎていて正直くたびれる。観ている時は気にならないんだけど、鑑賞後に振り返ってみると結構重い。


バービーとケンが目の当たりにした現実世界は、自分たちの暮らしていた世界とは真逆の男性上位社会だったという視点。なるほどバービー人形の世界ではケンは添え物だものね。映画館のグッズコーナーを見てもそれは明らかでバービー人形は売り切れ。ケンは、いっぱい余ってた。マテル社がバービー世界に流れ込んでくるのも狂っていて面白いし、ケンが憧れの男世界を開花させていくのも笑っちゃう。

人形ってだけで悲しい。ライアン・ゴズリングは『ブレードランナー 2049』でアンドロイド役だったこともあり、彼が人形ってだけで切なくなる。マーゴット・ロビーは少しだけ歳が行きすぎてるかなと思ったけど、それが逆に過ぎ去った時代っぽくて良かったかも。

後半の展開や物語の着地にモヤモヤが残ったりもしたけれど、全体は自己確立のエネルギーに満ちていて、シンプルな見方をすれば元気をもらえる映画だった(いやでもこの映画のメッセージとして結局人形たちの世界って幸せなの?っていう疑問符がずっと残ったまま)
バービーで遊んだことはないけれど、あの世界に没入したらさぞ楽しいだろうなという羨ましさもある。

私は人形に多様性はいらないと思う。現実世界をリアルに投影するほど、余計な生々しさを感じてしまうから。現実を反映するよりも可能な限り現実とは距離を置いた夢の世界であって欲しい。




余談
映画館での話。私の後ろの列にバービー感溢れるファッションの外国人女性客5人組が。鑑賞中のリアクションも良くて笑いが伝染してこっちまで楽しくなってしまった。それくらいライトな鑑賞がイイネ!