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バービーのTheylivebynightのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.9
現代の最重要映画監督のひとり、グレタ・ガーウィグ。ただ題材がバービー。誰もが自由に生きていいのだというエンパワーメントがテーマになることがわかりやすすぎて、あまり期待はしていなかった。観たあと、それが裏切られたかというと、そうではなかった。
初めの20分はフリ。これは喜劇で、笑えるものなら笑ってみて、ただ本当に心底笑える?といえる映画の見方は教えてくれる。以降は、たしかに笑える。客席からも笑いがそれなりにあった(ただグロリアの父の登場場面だけは、笑いがわからなかった)。無論、He/Himとしては心底笑うことはできない。ミスコン最高裁判事、クリントン、現実に感化されたケン。戯画化されたマテル社の役員はやりすぎな気もしたが、日本は完全にあんな感じなので、現実を思えば薄ら寒い。
さて、アランの意味、男性の困難にまで目配せするような後半のダンスなど、全方位にケアを行き届かせるのはヘテロ男性を遠ざけないためだと思ったし、空間演出も素晴らしいけれど(マテル社こそバービーランドとの裂け目)、あれほど舌鋒鋭いサーシャがわりとすぐに輝きを失うこと、ルースと手をあわせて受け渡される母娘(あるいは家族)のホームビデオ映像は疑問だった。少女がテーマなのに、少女が自らの声を失って見えたし、あの映像が最後の婦人科を誤解させてしまった気もする(とはいえ、あれが人間として生きる宣言でなければ、この映画は存在意義を見失うので、それはありえないとすぐに思い直したが)。ひとりで観たのがいけなかったのかな。観終わったあと、現実にかえって、ありうべき社会についてちょっと語ろうというきっかけになる映画だったとしたら、語り合うことなしには完成しないのかもしれない。
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