曇天

バービーの曇天のレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.5
なんかすげぇ。バービー映画を作るためにこれまであった「バカな人間だらけの世界」「おもちゃが持っていた価値観の読み替え」「自分探しの旅」等の過去映画の要素が集約されてて凄いものを見た。勿論バービーに元々あるネタを膨らませてのものもあるだろうがアイデアが鬼。

バービーの世界バービーランドは女性優位社会で主要な職業や力仕事もバービーが担い、すでに女性の地位が確立された社会。男性であるケンは女児向け商品としてはおまけ扱いなので地位が低く、特にすることがない。そのケンが現実世界の男性優位社会を学んで…からの展開が現実世界と重なってきてだんだん笑えなくなる(笑いながら)。
フェミニズムを題材にしてジョークを繰り広げるが笑いの対象は「男性優位社会のバカな男達」だから、男ってこうだよねと笑ってしまうが、劇場内ではバカっぽい男の笑い声は聞こえても女性の笑い声はあまりしなかったのを思い出して怖くなった。作り手もスクリーン上で軽いジョークを飛ばしたように見えて実は目は笑っていなかったのではないか。

バービーに感情移入する日が来るなんてこっちは思っていないから大変だった。心に突き刺さった。「死について考えたことある?」の一言から、それまで出来ていたことが出来なくなり生活に支障をきたしてしまう。爪先立ちできないとか些細に見えたけど完璧主義のバービー世界では深刻だった。これ人間でいう病気や怪我のメタファーで、予兆なく起こり得て日常生活が上手く送れなくなって解決のため労力を割かれてしまう、でも受け入れる覚悟をしていなきゃいけない。「死について考えたことある?」の言葉はバービーが人間に近づいた証のたとえと言えるが、たとえじゃなく人間のように病気のような症状が起きれば直接死に近づくことに気づいたからでもある(その前後は逆だったけど)。

冒頭『2001年宇宙の旅』オマージュは「哲学やりますよ」宣言だったのか、悪ふざけにしか見えない。劇場に観に行ったカップルで「何のために生きてると思う〜?」って感想言い合うんだろうか。事あるごとにショックを受けて泣いちゃったりバービーやケンの心情がコロコロ目まぐるしくてかわいい。現実世界のバス停や食卓など、切り取ると綺麗な風景の多かった印象の映画。死を意識したバービーなら当然老いも理解してるっていうめちゃくちゃ良いシーン。バービーの最後の選択に拍手。ストレート人間讃歌映画。バービーが突っ伏して身をよじる時プラスチックみたいな音が聞こえて細かいなと。他思い出した映画はマトリックス、テッド、レゴムービー、ピノキオ、A.I.、26世紀少年、ズートピア、Vフォーヴェンデッダ。言われたらそれだって映画色々ありそう。ビリーアイリッシュの主題歌MVがかわいい。
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