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バービーのtubameのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.8
凄いものを観てしまった...というのが観賞直後の正直な感想。しばらく凄いしか言葉が出てこなかった。


誰もが知っている着せ替え人形バービーが主人公のこの作品。
スタンダードタイプのバービーが人間世界に行き、自分や世界を見つめ直していく物語で、バービーたちが普段住んでいるバービーランドこそポップなショッキングピンクに彩られた可愛らしい世界だが、ほぼ全編ブラックジョークで彩られた社会風刺映画だ。
表現としてもかなりストレートでこってり、映画から受けるエグさの印象も強い(この辺はお国柄もあるだろう)。
バービーのシリーズは今や人種や立場に配慮した多種多様な商品があるようで、それをそのまま使って多様性素晴らしい!ウーマンパワー!みたいな映画を作るのは容易だったと思うが、そこで敢えてこんな攻めた内容にした販売元のマテル社の度胸には驚くし、これが大ヒットしているアメリカ社会の懐の大きさも素直に凄いなと思った。


本作をフェミニズム映画と受け取る向きもあるようだが、観た印象ではそうした思想もおちょくっている感さえあった(当然、真っ当な活動をしている人達に対してではなく的はずれな行動をしている人達への揶揄である)。
物語的に安易な救いもないし、どこまでも厳しいので「そこら辺のぬるいウーマンムービー程度で私たちは勇気づけられたりしません」って現実を突きつけられたみたい...(筆者は別にそういう映画嫌いじゃないですが)


個人的には年齢・性別問わず、世の中で生きている人間全てに向けたパワフルムービーだと思っていて、そのことは多くの時間を割いてボーイフレンドのケンに焦点が当たっていることからもよく感じられる。バービーランドは女性主体の世界で女の子の玩具としては添え物の存在のケンたちは役割のようなものを与えられていない。これは男性主体の現実世界を反転させた皮肉でもあるけれど、同時に自分を見失っているすべての人へのメッセージでもある。ケンの暴走や勘違いを通して現代社会の問題点と、現行の世界で救われない男性の生きづらさも炙り出される多層構造。ただ重すぎず適度にコメディとして消化できるようになってはいるので良かった。これはひとえにスタンダードなケンを演じたライアン・ゴズリングが最高だからだ。基本笑って観てられるのはかなり彼のお陰。


若干ネタバレになってしまうけど、途中の洗脳を解くくだりが直接的過ぎるのはどうしても好みじゃなかったかなあ。
言いたいことはまあ分かるけど...でも表現としてはあまりうまくないかなあと。
ただ手練れの監督なので、多分選択肢は色々ある中で敢えてざらつく表現にしたのかなとは思った。
あとはやっぱり単純にアメリカではこういう方がウケるのかなとか。


どうしても色々テーマ云々のことを考えてしまうけど、それ抜きでもバービーランドは表現としてかなり面白かった。遊び倒された人形や廃盤になった人形達が出てくるのなんかはユニークで楽しいし、バービーの世界をこれでもかといじりまくっているのでファンだったらより楽しめるはず。
スタンダードタイプのバービーを演じたマーゴット・ロビーの華やかなファッションはとても可愛いかった。


個人的に好みの映画とまでは言えないけど、本当に凄い映画だし考えさせられることは多いし観る価値がある作品だと思う。

最後に好きなシーンを挙げると、あるお婆さんが非常にチャーミングだったってこと。「美しいわね」って言葉に知ってるって返せたらみんな幸せに生きれるね。
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