じゅ

バービーのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

世界でピンクの塗料が不足したみたいな内容のネットニュース見て俄然行きたくなった。ワーナーブラザーズのロゴまでバービー仕様じゃん。
まさかこんな、何者でもおまえ自身でもないおまえらへ、みたいな話をお届けされるとは思ってもみなかった。


バービーは毎日幸せ。ケンはバービーと目が合えば幸せ。完璧なバービーランドでバービーは不意に死について考える。そこから何かが狂い出した。寝起きで口臭がしてシャワーは冷水を吐き出し、パンは焼け焦げて牛乳は腐り、家からふわりと降りられなくなって、そしてなんと、踵が地につき大腿にセルライトができた。
元に戻すには人間界へ行ってバービーで遊んだ子に会う必要があるという。バービーは半ば強引に付いてきたケンと共に人間界へ。そこで、バービーは自分が思っているような影響を少女に与えていないことを、ケンは男が人間界を支配していることを知る。
先にバービーランドに戻ったケンは、人間界のやり方を取り入れてバービーランドをケンダムに変えた。バービーは、自身の持ち主の少女サーシャと、大のバービーファンの母親と共にバービーランドの奪還に動く。ケン達のプライドを利用してケン同士で内乱を起こし、混乱に乗じてバービーランドを元に戻した。
うなだれるケン。「バービー&ケン」として付属品だった彼は、アイデンティティがほしかった。ケンとはビーチだの何だのではなくケン自身なのだとバービーが諭す。バービー達の結末はどうなるのか。ケンと恋に落ちる?否、結末などないのかもしれない。

バービーは、人間界のMattel社で出会った彼女らの生みの親ルース・ハンドラーと話し、人間になることに決めた。パステルで彩られたバービーランドを出た先は、パステルの作り物みたいな人間界。
サーシャ達に励まされ、背中を押され、緊張気味で入った建物で、受付に要件を述べる。「婦人科の受診に来ました。」


なんか、バービーってそんなにあるんすね。小並
白黒の水着のやつが最初にあったんだ。太古の昔から女の子のいるところには人形があって、それらは全て赤子を模したものだったけど、そこにバービーが現れたみたいな冒頭のくだりからもうめっちゃおもろかった。
いろんな職業のやつが発売されてるとは聞いたことあったような。というかどっかで見たことあったかも。でも、妊婦さんとか発育するやつとか何やら画面が付いてるやつとかはさすがに初めて見た。そんなんも出てたんだな。妊婦さんは廃盤(そもそもバービーの名じゃない)だそうだけど、実物がどんなのかと言うと、エンディングの写真にあった腹の裏側に赤ん坊が入ってるあれ?それは、なんというか、生々しいかも...。

何にせよバービーランドにはそれはもう様々なバービーがいて、土木作業員とか物理学者とか宇宙飛行士とかパイロットとか大統領とか作家とか、肌の色とか体型とか車椅子に乗ってるだとか。
そんな中で標準型のバービーは、まあ悪い言い方をしてしまえば何も持たない。バービーが人間界の女の子たちにパワーを与えてきたと思っていたのも、持ち主だったサーシャに初手で全否定された。

まあ、なんかズレてるCEOのおっちゃんが重役のおっちゃんたちと高層ビルの最上階に篭って語り合って生み出されたのがあの多種多様な派生品の数々だと思えば、そうなるのも当然なのかなあ。(あくまで物語の中の描かれ方のことであって、実際のMattel社がどうしてるかは俺には知る由もない。)作中のMattel社がそんな風に生み出した輝かしい派生品は、きっと受け取る側からすれば輝き方を上から押し付けられてるようにしか感じられない。しかもそんな様子を傍観してる非当事者は、そうなんだなあとなんとなく思って、輝き方のステレオタイプが刷り込まれていく。そう思うと俺はステレオタイプが刷り込まれた非当事者にあたるか。

話戻すと、自分のアイデンティティだと思ってたことが実はそうじゃなかったと思い知った標準型バービーは、じゃあもう「バービー」である必要はないのかもしれん。人間になって、あの時一人で座って自分の持ち主の記憶を辿った後に出会ったお婆さんがなんで美しかったのか、その答えを探し求めに行くってのも良いのかもなあ。なんでわざわざ人間になりたくなったんだろうと思ったけど、そいうことなのかなと想像してる。
バービー、お肌つるんつるんなお人形さんモードもまあいいけど、普通に影が差してる人間モードの顔も生命ってかんじしててよかったな。体はちゃんと人間として機能してるだろうか。


ケンはどうだろう。あいつの誕生のこと知らんけど、バービー人形の歴史を追う流れのエンディングを見たかんじまじでバービーの引き立て役というか飾り物みたいな立ち位置なんだ。
ケンにも何やらいっぱいバリエーションがあったけど、たぶんバービーの派生に合わせて作られたっていうくらいのものなのかな。

そんな付属品でしかなくて愛しのバービーに声援を送って夜にはガールズナイトのために軽くあしらわれるだけの都合のいい「男」っていう種族が、車に乗ってボートに乗って自転車漕いでスノーモービル飛ばして山を越えて宇宙を越えてなんやかんやしてローラーブレード転がしてたどり着いたリアルワールドではまるっきり違う。そこでは、街を興して立派な橋を掛けて、天を衝く摩天楼を築き上げ、学校という場所にいた女性が男である自分に敬語で時間を聞いてきた。なんということだ。男が自立して敬意を持たれてアイデンティティを持っていて、それどころか世界を仕切ってる。馬と男が仕切ってる。いや、馬は男の増強装置だ。ピーエイチディーだのエムビーエーだのイシメンキョとかいうやつがあれば、このケンが世界の全てを乗っ取れたかもしれない。

実際Ph.DとMBAと医師免許持ってる人に世界乗っ取れそうですかって聞いてもそんなわけねえだろって言われると思うけど、そこはまあ関係なくて、人間界の在り方を真似てモージョードージョーカサハウスを手にしたことがケンのアイデンティティの獲得になったか。そうでもなさそうだった。プライドを利用した陽動にまんまと引っかかってる辺り満足できてないところがあるんだろうな。そもそも「仕切るのしんどい」みたいなこと言ってたし。
じゃあ、バービーちゃんを付属品として携えることがアイデンティティ?付属品だったケンが安直にそう思うのも無理はないと思うけど、これも違うらしい。バービーにもめっちゃ拒否られてた。

お飾りを全部引っ剥がしたら虚無、みたいなのは寂しいな。ケン、俺こそが俺だぞって心から思える時が来ればいいな。


そういえば、バービーというアイコン(?)の捉えられ方って昔と今で時代と共に変わってってるんだろうか。あるいは時代の変化によってじゃなくて、単に子供から大人になるにつれてキラキラした姿からただの幻想の姿に見え方が変わってくってだけなのか。あのバービーがサーシャの所有物だったことを思えば、サーシャという1人の人物が辿る人生における時代に沿って、その存在の捉えられ方が変わってきたって言えるだろうか。
どうにせよ、時を経てアイデンティティって変わってくのかもなと思った。初めサーシャに冷たくあしらわれたバービーだって、きっと昔は思ってた通り(少なくとも)サーシャにパワー的なもんを与えてたはずなんだよな。

失うもんもあれば得るものもあるはず。バービー改めバーバラ、あのバス停みたいなとこで出会ったおばあさんのようにとは言わずとも、何を感じたかよく知らんが美しくなれたらいい。


あとVOGUE JAPANの記事が興味深かった。「『バービー』をより楽しむために知っておきたいポイントを徹底解説──生みの親ルース・ハンドラーやイースターエッグetc.」ってやつ。
じゅ

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