Keiya

バービーのKeiyaのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
4.3
(考えさせられる映画だった。せっかくなので感じたことを長文になってもきちんとまとめてみる)


WOWOWでたまたま流れてきたので、
「アカデミー賞も賑わしていたし、見とかなきゃなぁ」
くらいの気持ちで視聴。

結果、すごく良かった。
これまでさまざまに評価されてきたのがよく理解できた。


「これは哲学的だ」と、ある物事を性格づけすることがあるが、それはつまり「答えを定めることが難しい」ということを意味して使っていることが、個人的には多いように思う。

そういう意味で、この映画はとっっっても、「哲学的」な内容だと思った。

「女性とは」、そして同時に「男性とは」という現代社会における最も大きな問いに対して、この映画は2時間弱かけて最後に「分からない」と主張していると感じた。

あるいは「決められるものではない」と。

これはダメ、と言うことはもちろん良く無いことだが、
これはイイ、と言うことも、そうでは無いものへの批判を含んでしまうので、言うべきではない。

つまりは何にも言わないほうがいい、ということなのだと思う。

それを自己に振り替えれば、第三者の評価は無くていいんだ、というメッセージになるのだと思う。その象徴が、最後のケンの自己肯定なのかなと。

「I'm just Ken」と「Ken is me」には絶対言葉遊びの要素を持たせているだろうし、込めたメッセージはとても深いと思う。


バービーランドとリアルワールドは関係性が「逆」となっていた。
そして映画自体が見せるものもまた、現代社会の女性の社会的地位の問題について明らかに男性と女性を「逆」に描いている。
そうするとグルグルと回転してきて、結局、これは性別を分けない、どちらにも同じように難しい問題なのだと、喧嘩両成敗的なところへ帰着させているように思う。


男性が悪者に描かれている"ように見える"ので、特に男性的な視聴者の中で、あまりにも皮肉的・風刺的で気に食わないという人も少なくないようだが、私(男)はこの映画が描くところは決してそんな単純なことではなく、映画のストーリーを考えた上での「見やすさ」の結果であるというメタ的な理解をするべきだと思う。

むしろ、一見B級映画ともとられるような安易な展開を見せることで鑑賞者には容易くキャラクターの個性や心情を理解させておき、でも実は歴代のアカデミー賞作品賞受賞級の、一筋縄ではいかないようなテーマを、映画を見終わると一人一人の心の中に残していく、というとても秀逸な、並外れた映画の技だと、賞賛して然るべきと思う。


また、何か物事を会得するにはいきなり答えを知るのでは適わず、やはり紆余曲折あってこそだろうから、この映画ではやむなし男性にバカを演じてもらっているのだ、と評価している。

誰かの失敗を見ただけでは足りない、一度自分でやってみることで初めて難しさも良さも分かる、ってことなんだろうと。

人はどこまでも愚かなので、失敗しないと分からない
という自分の信条とも合致してる気がして、余計に考察が捗った。


ごく個人的で、滅茶苦茶な理論だが、
現代社会での女性の社会進出によって、ようやくこれで男性も女性も、どちらも社会的な失敗を経験することができた。
どちらもが反省をする機会を得た今、初めて気づくことのできるより良い「社会の在り方」を導き出せるのじゃないか、などとこの映画に刺激されて思ったりした。


世界中でヒットした理由が「アナ雪」と同じようなものがある気がするが、「バービー」のほうがより複雑で深いメッセージが多くの人に届いたのではないかと思う。


SNS上の炎上などもあり、なんとなく良いイメージを持っていたなかったが、ひょんなことで鑑賞することができて、心から
「見て良かったー」
と思っている。
Keiya

Keiya