Nasagi

ヒッチコック/トリュフォーのNasagiのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

ヒッチコック映画のスタイルとは?
今でこそヒッチコックというと「めっちゃすごい人」というイメージが定着しているが、もともとは娯楽映画の監督として「おもしろいけどそれだけの人」という評価だったらしい。(すごく雑に書いてます)

しかしそんなヒッチコックを「彼はただの商業監督、エンターテイナーなんかじゃない、一流の映画作家で、アーティストなんだ!」と擁護したのが、トリュフォーを始めとするフランスの若手批評家たち。やがて映画監督としてヌーヴェル・ヴァーグを先導していく人たちでもある。
そのおかげでヒッチコック映画は、ストーリーだけを見られるんじゃく、その語り方、映画技法のすばらしさもふくめた総合的な「映画」としてきわめて高く評価されるようになった。

このドキュメンタリーが下敷きにしている『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』は、そのようにヒッチコックの地位向上に貢献したトリュフォーが、尊敬するヒッチコックに対して行った50時間にもおよぶインタビューを書き起こした著名な本。

自分も遅ればせながら今読んでいる最中だけど、ヒッチコックのファンでない人にもぜひオススメしたい。
映画製作の裏側のエピソードを(たぶん多少話を盛りながら)おもしろおかしく語ってみせるヒッチコックに、鋭い分析力で彼から映画づくりの極意を引き出していくトリュフォーの名コンビ。2人の話のうまさのおかげでスラスラ読める一方、映画に対する深い理解には「なるほど〜」と唸らされる。

とまあ自分が本の紹介を書くまでもなく、このドキュメンタリーを観ればたぶんみんな読みたくなるんじゃないだろうか。

このドキュメンタリーは、そのインタビュー音源から一部を抜粋しつつ、ヒッチコック映画のスタイルとは何かについて、名ショットを多数引用しつつ明らかにしていく。
すでに読んだ箇所からの引用でも映像で観るとやっぱり一段とフレッシュだしわかりやすい。
まだ観たことがない作品はすごく気になり、すでに観た作品ももう一度見返したくなる内容だった。

また、デヴィッド・フィンチャーやマーティン・スコセッシら、ヒッチコックから多大な影響を受けた映画監督たちへのインタビューも収められ、内容に彩りを加えている。
「ヒッチコックさんスゲー」って思わせるドキュメンタリーだからしょうがない面もあるが、語り手が男ばっかりで作品の男性中心主義的な性格に無自覚な点は残念だった。

おもしろかったのが、ヒッチコック映画の極端に心理主義的な描写と、そこから連想されるイメージについてふれている部分。夢のイメージや、覗き見や屍姦願望といったものが、時にはあからさまに、時には暗示的に作品の題材となっている。しかもそんな危ないの撮ってるのに、『サイコ』とかは大衆的にもすごくウケていたという事実。
黒沢清監督も言っていたように、ヒッチコック映画はメインストリームであると同時に異端の存在であるということが改めてよくわかった。
Nasagi

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