笹井ヨシキ

ノクターナル・アニマルズの笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

トム・フォード監督の「シングルマン」以来の最新作ということで鑑賞して参りました。

トム・フォード本人のことは超有名なファッションデザイナーということくらいしか知らないのですが、前作「シングルマン」は大好きな作品で、一人の男の鬱屈とした心象世界とそれを翻弄するようにすれ違う現実の対比が皮肉とユーモアを織り交ぜながら描かれていた素晴らしい作品で、決して本職の片手間で撮った作品ではないクオリティの高さに感服していました。

約七年ぶりの本作も、その美的感覚の鋭さと娯楽性の高さが絶妙なバランスで織り込まれたオリジナリティー溢れるサスペンスでめちゃくちゃ面白かったです。

まず何と言っても虚飾に塗れた現実パートと、西テキサスの田舎町で起こる渇いたヴァイオレンスが描かれる小説パートが対比し交錯することで生まれる緊張感が素晴らしいですね!

エイミー・アダムス演じるスーザンはギャラリストとして成功し、イケメンでやり手の夫と結婚した勝ち組ですが、その実は夫との仲は冷え切り、自身の欲望や主張を抑圧して生きている女性で幸せとは真逆の状態です。

自信の不幸せを覆い隠すかのように身に着ける彼女のファッションやメイク、髪型には人を寄せつけない鎧のような隙の無さを感じさせますが、同時に生気もなく不自由さも感じさせます。

そんな彼女が元夫から届いた小説「夜の獣たち」に刺激され、抑えつけていた生気や情熱を取り戻し過去の過ちを再認識していく(させられていく)展開にはスリリングかつ心に突き刺さり見応えがあります。

スーザンの心理の変遷をファッション一つで表現する手腕は流石トム・フォードという感じで、過去のスーザンの比較的ラフなスタイルとギャラリストである現在との対比、そしてラストシーンで心の昂りを緑のドレスで示すという演出の遊びは、非常にわかりやすい映画的快感に満ちていたと思います。

映画内の小説パートもとてつもなく面白く(というか面白くないとシナリオ的にも成立しないんだけどw)
特に末期がんで余命いくばくもないが故に、クズが野放しになる世の中に一矢報いようとする刑事役のマイケル・シャノンは超カッコ良かったですね。
正義の執行の末に訪れる救われることのない魂の物語は映画内小説にするだけでは勿体無い程の見応えがありました。

突発的かつ不条理な暴力の末に浮かび上がるアートのような妻と娘の亡骸と復讐の炎というテーマが現実のスーザンが集めるアートの中にも無意識に投影されているというのも恐ろしく、「REVENGE」のポスターアート(っていうのかな?)やリチャード・ミズラックの写真は言葉以上の訴求力があったと思います。

それでもエドワードの憎悪が自身へ向けられていると思わないスーザンは、才気溢れる小説に興奮し嬉々としてメールを送り、再会に期待しながら高級レストランで一人ワインで口で湿らします。
彼女が、エドワードの真意に気付くであろう前に暗転するラストは、何とも意地悪かつ上品で、華麗に突き放される感覚が非常に楽しかったです。

もっと書くべきことがあるんだろうけど、美術の美しさに酔いしれながらも娯楽作としても一級品で文句なし!傑作でした!

トム・フォード監督には本職もあるんだろうけど、もっと映画撮って欲しいなぁと思った作品でした!
笹井ヨシキ

笹井ヨシキ