まぴお

天空の城ラピュタのまぴおのレビュー・感想・評価

天空の城ラピュタ(1986年製作の映画)
3.9
【破壊と再生の後に残るもの】

日本でもっとも愛される悪役ベスト3に入るといっても過言ではないムスカ大佐。
日本でもっとも愛される台詞ベスト3に入るといっても過言ではない「バルス!!」
怖さと哀愁を併せ持つロボット兵のフォルム。
積乱雲を抜けた先にある神秘的な風景。
そして壮大なロマン。
子供の頃この作品を観て心を鷲掴みされたフィルマークスの人も多いのではないだろうか?
これをベストに上げる人も少なくないであろう名作中の名作。

ところが意外にもこの作品はジブリ作品の中で30年前の興行収入11.6億円と観客動員77万人がワーストの記録らしい。ちなみにジブリで興行収入1位はオスカーを取った「千と千尋の神隠し」の304億円、観客動員2350万人であることからもその違いに驚く人もいるかもしれない。じゃあ興行および観客動員を記録した「千と千尋の隠し」と「天空の城ラピュタ」が30年後どちらが多く語られるのかといったら僕はやはり「天空の城ラピュタ」であることを確信している。


あの頃のワクワクやドキドキの冒険譚。
大人になって観るとその気持は色あせて見えるのだろうか。


いや。



この作品は何度でもその時の気持ちを蘇らせる魅力を持っている。

小さいころ僕は古代遺跡やオーパーツに胸をときめかせる時代を過ごした。
イースター島のモアイ像の謎。インカ帝国の空中都市マチュピチュ。
遠い昔に繁栄していた文明や都市がなぜ滅びたのか?
彼らは何を目指したのか?
その廃墟を通して過去の文化人からの静寂の語りかけがスッと心に入り込むような不思議な感覚。

そんなことを考えるだけでワクワクした。
そして、もしかしたら今あるこの文明もいつかは滅びて何百、いや何千年後の未来人がこの時代の文化はどんなものだったのかと心をときめかせるのかもしれない...
そうやって時代は滅びては繁栄し滅びては繁栄を繰り返してきたのだろう。

ではなぜ文明は滅びるのか?
そしてなぜ人はその滅びに美学を感じるのか?

実は宮崎駿はどの作品にも悪人を意図して出していないという。
では先に出したムスカ大佐は悪人ではないのだろうか?

彼は謳う
「僕は回復可能なもの以外は出したくないんです。」

何度も大人たちが文明を破壊してきた。
そのたびに子供たちは文明を再生してきた。

それは宮崎作品の根本的なテーマなのだろう。
物質に塗れて汚い欲望から破壊を繰り返す愚かな人間。

彼自身も何度も何度も戦争を繰り返す愚かな人間に心底うんざりしたのだろう。

それでも...

それでも...なお宮﨑駿は人間に希望と光を見出す。

それを作り出すのは紛れも無くシータやパズーといった心の澄んだ子供たちなのだ。

だから彼はその希望である少年と少女に心底惚れ込むのだろう。

破壊と再生。

これは今後も生命がそのDNAを連ねる上で必然なのだろう。そこに悪や正義はないのだ。

そしてその生命の美しさ
その儚さに美学を感じるだと思う。

これを観た後は無性にあの日ドキドキワクワクした冒険に出かけたくなる。

いつでも新しいことを始めるのは今日が最も良い日だ。




「さぁ40秒で支度しな」

508本目
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