Ray

愛こそはすべて All You Need Is LoveのRayのレビュー・感想・評価

5.0
あらすじ
若者の性をテーマにした「青春H」シリーズの第42作。病魔に冒された青年が、自身の子孫を残そうと奔走する。監督は、同シリーズの『スターティング・オーヴァー』も手がけた五藤利弘。
28歳のフリーター・優(倉八慶)は、定職に就かないことを理由に恋人から別れを告げられる。そのまま無気力に過ごしていた優だが、やがて体調に異変が…。死を意識した優は自分の子どもが欲しいと考え、元カノや出会い系サイトで知り合った女性たちを口説き始める。

感想
「なんにもないこの街を出て手に入れたものってなんだろう」

夢を持って上京し、暫くの後、何者にもなれていない自分を振り返り、そろそろ親の待つ故郷へ帰ろうと思いながらも自堕落な心地よい都会の生活から離れられない。

そんな主人公が死期を感じる病状に、生きた証としてせめて子供を残したい…。

的なお話なのかなと少しモヤモヤしながら観ました。

でも、ビートルズの「All You Need Is Love」
の曲を聴いて歌詞を知った途端、見えてくる世界が一転しました。

張り巡らされた伏線。美しい蜘蛛の巣のようです。心の琴線をつま弾く感じです。

私に導き出せるか。自信はありませんが。触れたくなる美しさです。

All You Need Is Love
君に必要なのは愛。

Love Is All You Need
愛こそはすべて。

この歌の歌詞は二重否定という文法を多用しているとされています。

愛こそはすべて。と言わんばかりに子供を残したい。とするからおかしな事に。

では。

誰に残したいのか。とするならば。

母子家庭で自分を失ったら一人ぼっちになってしまうお母さんの為なのではと。

そして。

君に必要なのは愛。

優に必要なのは愛。

All You Need Is Love.

スペルの中にも二人の名前が。

お父さんを肺がんで亡くして一人ぼっちになってしまった愛の為にも。

愛は優と結婚して、優のお母さんの待つ故郷へ帰ることを拒んだことが、二人が別れた本当の理由なのかなとか。

お父さんが二人の交際を反対した理由も。

愛を残してこの世から去る前に幸せな姿がみたい。安心して任せられる人物と結ばれて欲しい。

お父さんを残して優の故郷で暮らす事は出来ない愛の気持ちも。

全ては憶測。これは想像の世界。

二重否定を考えれば。

優は一人で死ぬのが怖かった。お母さんの元へ帰りたかった。

でも、ただ失うだけの悲しい時間をお母さんに背負わせるわけには。

愛。

愛のお父さんもどれ程の気持ちで愛を残して逝ったのか。

その時は、分かっていてもその辛さから目を背けて逃げてしまった。
お父さんを安心させる為に、就職して堅実な暮らしを送り愛と結婚。

何者にもなれていないけれど、何者かになりたくてなんにもない故郷に母を置いて上京してきたのです。

夢を諦めきれない。

でも。

そんな今の自分に出来る事。

愛とお母さんに自分の代わりになってくれる家族を残したい。

子供を育てる事でお母さんと愛が二人で助け合いながら家族として自分の分も幸せに暮らして欲しい。

愛に拒まれる度に、せめてお母さんにだけでも家族を。と他の女の子へ。

どのセックスも性よりも生を感じてしまう映像。

青春のHはAVみたいにはいかない。

ヌーディでポルノの世界。欲望と欲望の突っ張り稽古とか。…違うか…。

生きていくのです。欲望は生きる為の力に。

けれど、虚しさの後に、心はやはり愛へ。

これは青春の愛の映画なのだと思いました。

まさか青春Hの次は青春I(愛)的な…。

いやいやいや(汗)

どこかのあなたといつかの私の青春のHと愛の映画なのでしょう。

故郷の母が膵臓がんで余命宣告を受けて。

故郷で看取った日々を思い出しました。

子供のいない自分。兄にもいなくて、孫に囲まれることのなかった母の人生。

優は、お母さんに会いたくて。悲しませるだけではなく喜びもお土産にしたくて。赤ちゃんがお腹にいる愛を連れて帰りたくて。それが叶わないなら赤ちゃんだけでも。奔走する。命の時間が刻々と削られていく事を体で感じながら。泣き叫びだしそうな思いを。

馬鹿だなあ。って。

理解してくれる友達。察して願いを叶えてくれていた愛。

自分には思いつかない。でも。

男の子はお母さんが本当に大好き。

でも、上手く口にする事が出来ないもどかしい程の不器用な。

側にいる為に言い訳の一つもなくては甘えられない。

余命0宣告を受けた母を毎週末、東京から見舞う兄の姿を思い出しました。

兄の見舞いを首を長くして待ち焦がれる母の姿も。

自分はそんな二人から離れて、海を見たくなりました。

25歳位の頃は職場の近くの竹芝桟橋へ、何か考え事をする度に、海を眺めに立ち寄りました。

美しい物が見たくなって。それは今も変わらないかもしれません。

お母さんね。死ぬの怖ぐないよ。

病気のことは伝えてはいなかったのだけども。

私の兄は、ほとんど、とんぼ返りの新幹線の中、どんな思いだったのだろう。

どうしてこんな物語を生み出せるのだろう。

どんな孤独と悲しみを越えてきたのだろう。

優しい。愛しい。美しい映画。

葬儀の後、片付けていたら母の部屋から

「美しく生きよ 母より」

と書かれたブラックボードが。

あの日から美しいということを考え続けています。

美しいものを美しいと言葉にすることを大切にしています。

私の力では読み解き切れない、心の奥深くの静かな青い泉みたいな映画。

誰も立ち入れない透き通った美しい場所。

救われて癒やされる思いです。

ありがとうございます。
Ray

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