空海花

母よ、の空海花のレビュー・感想・評価

母よ、(2015年製作の映画)
4.2
イタリアを代表するナンニ・モレッティ監督作。今作が初体験。

カンヌでエキュメニカル審査員賞受賞。トロント、ニューヨーク、ウィーンなど
の国際映画祭出品作。
本国イタリアのアカデミー賞にあたる
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、
作品賞、監督賞など他10部門にノミネートされ、うち2部門で受賞。
またフランスの映画批評誌カイエ・デュ・シネマの2015年ベスト1だそう。

主人公は女性映画監督マルゲリータ(マルゲリータ・ブイ)
デモのシーンを撮影している。
解雇される人達の映画。
悲しい話じゃない、
力と希望の物語だと彼女は言う。
硬派な社会派作品なのだと。

役者への指導が難解で抽象的。
かなり手厳しく、状況は殺伐としている。
そして撮影が終われば病院へ。
元教師の母が入院しているのだ。
簡単には答えの出ない重責と忙しさ
張り詰めた空気に息苦しくなる。
元夫との間に、悩み多き年頃の娘もいる。
恋人には一方的に別れを告げる。
既に限界寸前という感じ。
それでも強気で押し通す姿に
言葉を無くすが目が離せなくなる。
やり過ぎとはいえ美人で格好よいので
羨ましいやら怖ろしいやら。

更にハリウッドから呼び寄せた
トップ俳優バリー(ジョン・タトゥーロ)の芝居がメチャクチャ。
しかも超おしゃべり。
すぐ冗談を言う。うるさい!(笑)
寝言で「殺してやる!」とか
どうやらケヴィン・スペイシーに殺されかけたようだ(笑)

そして、もう一人大事な人物。
母の病気に胸を痛めながらも、
整然と行動するのが兄だ。
演じるのがナンニ・モレッティ監督。
この話は彼の体験を基に作られていて、
監督の役は主役の女性監督に投影されているのだそう。
ただ主人公が女性になったことで
観ているこちらは彼女自身の傲慢さや
周囲からの容赦ない向かい風が
余計に身に刺さって、いたたまれない。
“母と娘”同性同士というのも、
息子との関係とはまた違う趣があるものだ。

映画談義や演技指導の場面
映画にかける情熱は
観ていてかなり楽しい。
ジョン・タトゥーロも最高だし
モレッティは癒しの存在である。
ラテン語の教師である母の演技や台詞も利いている。
娘も元夫も皆、爪跡を残すのが見物だ。
彼、彼女らは、
愛し合った相手、親子と兄妹、
それぞれの目線で彼女をずっと見ていたのが伝わってくる。
兄弟姉妹が居ると、助かるよね…
最近弟は前より近くに越して来たのに
あんまり会わないな。
それでもお互い居なくなったら
大変だろうなと、ふと思った。

時々差し込まれる短い回想が
作品を多層的に映し出す。
マルゲリータの心情が徐々に漏れ出し
厄介だったジョン・タトゥーロが
戸を開け、風を吹かせる。
感覚的に胸にストンと落ち、
心を揺さぶられた。

何を考えているの?
母に問うた眼差しは優しい。


2021レビュー#066
2021鑑賞No.108


初めてFilmarksさんにデータの修正をお願いしました。
迅速なご対応ありがとうございます🙇‍♀
空海花

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