幽斎

残酷で異常の幽斎のレビュー・感想・評価

残酷で異常(2014年製作の映画)
5.0
この作品と出会ったのはYouTubeの有料版だった。私は基本的にはミステリー、スリラーしか食さないが正に「だから映画はやめられない」そんな1年で1本有るか無いかの傑作だった。

数多ある「ループもの」の中でも本作は傑出した正攻法な脚本で捉えてる。オチありきな捏ね繰り回した脚本では無く、レトリックと呼ぶに相応しい物語性が有る。主人公を敢えて感情移入し難いキャラクターとし、その彼と共に見る側も無限ループを体験する事で、少しずつ主人公の感情の変化を読み取るうちに、この時間の概念の無い世界からどう脱出するのか、一緒に考え、また自然と主人公を応援したくなる丁寧な描写と機微が比較的短い上映時間に実に秀逸に描かれてる。しかも、この阿鼻地獄は一辺通りでは無く、きちんと軸となる分岐が有り決して見る側を置いてきぼりにすることは無い。

得てしてスリラーはそのトリックをどう際立たせるかに注力するが、この作品ではあくまで物語を描くために、結果的にループものに成ってしまった。そんな清々しさすら感じるほど知性的だ。優れたミステリーの短編を読み解く様に、物語の旅は意外な方向へと進み、最後まで見届けた観客を納得させるに十分な満足感を与えてくれる。スリラーに良くある監督のニヤケ顔は其処には無く、「お前がそう決めたならガンバレ!」と、エールを送りたくなる結末を迎える。

Merlin Dervisevic監督は短編が多く、現時点でも長編は本作のみ。しかし、低予算を感じさせない(セットはチープですが)画面構成は見事。同じ毛色の作品で言えば「トライアングル」2009年 Melissa George主演ですね。本作のテーマは「償い」、きっと最後の主人公のセリフがカッコ良く聞こえるでしょう。スリラーと言うジャンルで括るにはもったいない、トリックと物語が見事に融合した傑作、超お薦めです。配信スルーなのでネットでご覧ください。
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