動物映画は数多くあるけれど、馬の映画ほど荒々しさと爽やかさ、厳しさとぬくみが共存するものもないように思う。
170分という長丁場。
随分二の足を踏んでいましたが、いざ観始めれば冒頭の銀世界、清涼な少女たち、凄惨な事件、馬の行末とぐんぐん引き込まれ、モンタナに舞台を移してからは風の温かさまで感じるような広大な自然風景が美しくて難なく観ていられました。
そこに被さるトーマス・ニューマンの音楽があまりに秀逸。
スカーレット・ヨハンソン少女の演技力もさすがの驚きだった。
でも中高年の老いらくの不倫愛はいらねンだわ。
それ入れるくらいなら、都会の美少女にちょっとドギマギするカウボーイキッズの淡い恋でも入れてくれ。
爽やかさの邪魔なんよ…
壊れた心、人間関係の修復がテーマの一つだとして、修復が必要な心の持ち主は少女と馬だし、
壊れた人間関係も
少女⇔馬
母⇔娘
だと思うんですよね。そこに主眼を置いてくれよと。
バリキャリ編集長と頑張り屋弁護士の夫婦仲がどうだったとか、実は母親にも根深い傷が、とか急にぶち込まれても…
馬の事故関係ないし…
夫ロバートは娘にすごく好かれているし、この人まじでなんの落ち度もなさすぎるので、勝手に旅先の年の差男に惚れてドキドキメソメソする妻アニーにまるで感情移入できない。
なんなら冒頭の病院に対する態度も悪すぎてなんなのこの女…って感じ…。
この人の功績はピルグリムを生かしたことと、強引にでもトム・ブッカーという選択肢を開拓したことくらいですね。
くらい、とはいえ多大な功績なので、あとは余計なことせんと大人しくしといてくれ。
キミのせいで夫は自尊心ボロボロだし、
トムもカサブタ剥がされてボロボロだからな?
まあね、現実にはあるかもしれんよこういう出会いも、愛もね。
人には赤裸々に話さないでいる夫婦問題とかね、結婚したあとで魂の伴侶的な人に出会ってしまったとか、年の差で恋に落ちちゃったとか、許されない大人の恋とかね、色々あると思いますよ。
秘めた恋の相手と取るに足らない遊びに使ったゴミ同然のアイテムを見て涙する気持ちもね、分かりますよ。
でも急に生々しくなるじゃない、そういうの…
せっかく馬と少女のシリアスな再生物語が、なんか汚れるじゃない…
現実にはないことを描けるのが映画ですけど、こんな不貞の中年愛は逆に描かないで清潔に〆めて欲しかったです。
まあ、原作があるから仕方ないのかもしれんけど…