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フリーランスのsilkのネタバレレビュー・内容・結末

フリーランス(2015年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

神すぎた。

仕事とプライベートにおける「替えの効く存在」と「替えの効かない存在」とは何なのか、「替えの効かない存在」は純粋に互いを思いやることであり、それは公私共に存在すること、それを見つけることが自分を大切にすることではないのか、みたいなことを考えた。

それが節々の展開で表されるのが凄い。3ヶ月目?くらいに診療室No.5に入るとイムではない別の医師がいて、ユンがイムにとって「替えの効く」大勢の患者の一人であり、同時にイムも「替えの効く」医師の一人であることが示される。
しかしその後、LINEのやり取りを通じてイムがユンを「替えの効かない」一人の患者として接していることが描かれる。
「替えの効かない存在」はパートナーをはじめとするプライベートに見出すものとされているが、仕事上でもまた自分次第で得ることができる。イムはたしかに美しい女性だが、こういった仕事と仕事相手に対する真摯な姿勢こそが彼女の真価だ。この映画のその後、二人がどうなったのかは分からないが、二人が恋愛至上主義に寄らなかったのはとても良き。

ジェーが仕事を辞める時、ユンは「替えの効かない存在」なのだと説得し、それは二人が真摯に仕事に向き合った証だ。しかし結局ジェーは仕事を辞めてしまうし仕事の相棒としては「替えの効く存在」だったのだが、親友として「替えの効かない存在」となる。
ジェーのウェディングフォトをユンが仕上げるというエピソードも秀逸で、何事も公私に分けられないのだと改めて思ったり。

ユンのグラフィックデザイナーとしての仕事はいくらでも「替えの効く」仕事であり、ユンは「替えの効かない存在」になろうと頑張っていた訳だが、優秀な人材というのは次から次へと湧いて出てくるし、相手はユンを酷使し搾取しているだけなので結局は「替えの効く」存在止まりなのである。

つまり、基本的に人間は公私共に誰にとっても互いに「替えの効く存在」なのだが、互いがいかに真摯に向き合うか、互いを大切にして搾取しないかこそが互いを「替えの効かない存在」にしていくということなのだろう。この努力を片方だけが行うのではなく、双方が行うことが重要だ。

そして、ワーカーホリックは自分の問題と向き合わないことと同義だと改めて。でも同時に、ユンとイムの間に仕事を頑張る者同士に生まれる絆みたいなものが見えたのは嬉しかった…事実、ユンとイムの絆、ユンとジェーの絆は激務によって生まれたものなのである。(勿論、心身を壊す働き方がダメなのは大前提だが。私も仕事に睡眠削られてるし、仕事のしすぎで身体中に蕁麻疹できたことあるけど、何日も徹夜ってのはないぞ…)ユンの仕事の仕方は異常だが、200人近く患者が列をなして待っている病院で働き、すきま時間に専門医の勉強をしているイムも相当激務だと思われる。仕事を頑張る人を否定しない、頑張る人達だけが得られる特権的な喜びや絆が描かれているのも良い。「あの人も頑張ってるから自分も頑張ろう」って思えることも大いにあるし、それが楽しかったりするので…。色んな立場にある人を包み込むような優しさを感じるのもまたNawapol監督作品の好きなところ。

皮膚科もグラフィックデザインも、基本的には「表面を綺麗にする」というもので、ルッキズムの視点や「表面を修正する努力を必要とするということは実は本質に問題がある」という示唆も感じられた。
あと私自身がアトピー持ちだったこともあって、痒みって一見些細な症状に感じられるけど、実はめちゃくちゃQOL下げるんよねと思ったり…。

舞台や展開は地味でも、取り上げられるテーマや伝わってくるメッセージがいつも新鮮で、演出の技によってめちゃくちゃ面白くできるNawapol監督は本当に天才だと思う。
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