ナガ

ルームのナガのネタバレレビュー・内容・結末

ルーム(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【我々を取り巻く四角い世界について】

この映画はおそらく意図的に四角い枠を多く登場させている。それは「ルーム」そのものであり、ルームの窓であり、テレビであり、あるいは近代的な病院の窓枠であり、スマートフォンである。

この物語において描かれるテーマは個人的には2つあると思う。1つ目、これが表象的なテーマだと思うが、強姦やレイプといった事件により望まぬ子を妊娠し、母親となってしまった女性が、その子を産み、育てていくことが果たして正しいのか?そしてそれは子供のためになるのか?そんなテーマである。その母親と暮らしていれば子供は大きくなったら自分が生まれてきた経緯について、嫌でも向き合うことになる。それは子供にとって何よりつらいことであり、それが子供のしがらみとなるのだ。しかし、この物語においては、未熟ながらも母親でいたい。私はあなたの母親である。という心からのメッセージが終盤に述べられる。これが子供のためになるかどうかは今はわからない、しかし母親として1歩を踏み出したジョイと、母親を助けるために1歩踏み出したジャックに待つのは幸せであると願いたいものだ。「生物学的なつながりなんて関係ない、この子は私だけのもの。この子の父親はこの子を愛してくれる人よ。」というセリフがとても心に残った。ジョイの父親のように自分の娘が産んだ望まぬ子を愛せないというのはある意味当然の反応かもしれない。だからこそこの問題に答えを出すことはやはり難しい。しかしこの映画は子供のために1歩を踏み出す、強い母親の姿を描いていた。

そして個人的な解釈だが、この物語の裏テーマとして存在していたのが、人間は四角い世界にとらわれてしまっている、だからそこから外に目を向けていかなければならないということだと思う。人間は自分たちを四角い枠に閉じこめていった。それは家であり、部屋であり、窓であり、テレビのモニターであり、スマートフォンの画面である。人間はリアルでかつアンリアルなその四角い世界にどんどん自らを閉じこめてしまった。でも世界は想像もできないほど広い。今や我々はその四角い世界から出て大きな世界に目を向けていかなければならないのではないか?我々も今まさに「ルーム」の中に閉じこめられているのではないか?四角い枠に切りとられた我々の世界は驚くほどに小さく、虚構に満ちている。我々はその四角い世界から出て、自分たちの手にリアルを取り戻すことを求められているのだ。自分の知る世界から一歩踏み出した先にある未知の世界。我々は常に未知の領域に踏み出していかなければならない。

ドラマ性の中に現代の社会問題へのメッセージをも、折り込んだこの作品。涙無しには見れない母親が母親であることへの決意。素晴らしい、素晴らしい作品である。
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