グラッデン

ルームのグラッデンのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.8
高校生の頃に誘拐された7年間も監禁された女性と子供が、監禁された「部屋」から脱出し、「世界」に舞い戻る物語。物語の引き込み方、作品の設計も含めて、非常に丁寧に作りこまれた作品でした。普段はこういうことを書かないようにしておりますが、今年ベスト級の1本でした。

ドキュメンタリータッチに描かれた前半の監禁生活の光景に衝撃を覚えますが、私は物語の肝となるのは「部屋」を脱出した後の生活を描いた後半の部分であると思いました。というのも、親子の本当の苦労は部屋を出た後からの方が大きいと思うと同時に、そうした壁を乗り越えて初めて「部屋」からの脱出を果たすものだと考えていたからです。

本作には、前半と後半に「部屋」が登場してきます。前半は母親のジョイと息子・ジャックが監禁されていた納屋=部屋、後半は「部屋」を抜け出した後に親子が過ごすことになるジョイの実家にある部屋です。

物語を読み進めていくうえで徐々に表面化していくのが、ジョイとジャックの「部屋」と「世界」に対する認識の違いです。7年間も途絶していた世界に戻ったジョイは、失われた日々と変化を実感することで苦悩を深めます。象徴的だったのは、彼女が誘拐されるまでに過ごしていたままで残っていた自身の部屋の存在だったと考えます。ある意味、監禁生活の実情以上に残酷な場面が多かったのではないかと。

一方、生まれてからの5年間を「部屋」で過ごしたジャックもまたギャップに戸惑うことになります。部屋での生活を基準として、母親以外の人物との会話もままならない状態だった彼が、どのように変化していくのかは本作の大きな見どころだったと思います。

世界から認識されていない、時間軸の流れを閉じ込めた2つの部屋の存在は、村上春樹の小説に登場してくる独特の空間を彷彿させますが、部屋から抜け出したからこそ映ってくる世界の風景は、我々にとっては日常そのものでありますが、5歳になったジャック君には挨拶の対象になる存在として新鮮で刺激的な空間であることを観客に印象付けたと思います。その意味でも、ジャックを演じたジェイコブ・トレン君が大変素晴らしかった。

というように、単純に感動というより、様々なことを考えさせられる作品でした。子供を持つ親御さんが見られると、また違った印象は受けるかもしれないですね。