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不愉快な話のCINEMASAのレビュー・感想・評価

不愉快な話(1977年製作の映画)
3.5
 第⼀部がフィクション、第⼆部がドキュメンタリーの形式を採った実験的な短編二部作である。初公開時には<⼥性が好まない映画>との警告文が添えられたらしく、批評家たちも不快感や否定の言葉を露わにしたという。

 ユスターシュの友⼈であるジャン゠ノエル・ピックの体験に基づく談話の実録が第2部。これをマイケル・ロンズデール、ジャン・ドゥーシェらを起用して再現したのが第1部である。

 ピック(=ロンズデール)の談話に数人の女性陣が聞き入っている。その談話は、猥褻で不愉快極まりない体験談。女性用トイレに忍び込んだピック(=ロンズデール)が、そこにあった覗き穴から窃視した卑猥なる光景。これらの談話の数々は、淫靡という言葉からは程遠い不潔さを伴ったものである。窃視(=覗き)の趣味が毛頭なく、排泄行為を含めたスカトロジー全般に生理的嫌悪感を禁じえない僕にとっては、本作で披露される談話の数々に、こればかしかの性的好奇心を喚起される事は無く、タイトル通りに<不愉快な話>ではあるのだが、然しながら、その語り口は一種の哲学めいた教養に裏打ちされてもおり、「さすがはマルキ・ド・サドを産んだ御国であるな……」と、妙なところで感心をしてしまった。ただ仲間内で馬鹿笑いするだけの阿呆な猥談に声高らかく興じた事は有るけれども、本作の場合は「サドにとっての快楽はまず聴覚であり、その次に視覚である」なんていう高尚めいた語り口であるから、「ふむふむ、ほぉほぉ……」と拝聴するしか無かった僕である。

 といったところで、一言で要約すると、「なにゆーたはんの、この人? おもろいの、この話?」ってなところであるのだが、ユスターシュの目するところは、その不愉快で下劣な、それでいて幾ばくかの才気・知識も含んだ猥談そのものを開陳する事ではなく、その談話の実録=記録としての在り方と、更にそれを劇化して複製した上で順序を入れ替えて見せるという知的な実験である。この、「実験」という語句を「遊戯」に置換する事も可能であろう。ここに在るのは虚と実の相互作用の果ての相剋だ。

 これもまた興味深く鑑賞したものである。
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