くもすけ

ボブという名の猫 幸せのハイタッチのくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

「15時17分、パリ行き」ばりの本人(猫)出演が叶った実録もの。監督は「エア・アメリカ」のスポティスウッド。ボブとその相棒ジェームズがビッグイシュー販売のため観光客を目当てに各所を訪れるため、ロンドンの観光名所をダブルデッカーバスで巡ることができる。

大都市に巣食うワイルドな猫たちと違い、ボブは随分と人懐こい。ある御婦人が実体験から言うには、茶トラ(ginger)は飼い主に一生添い遂げるそうな。この幸運の茶トラ猫ボブを感染症から救い、玉抜きにしたのは路上ミュージシャンのジェームズ。家庭環境が悪く身を持ち崩し、最後にシラフだったのは11歳の時、という筋金入りの路上生活者。

ジェームズはメタドン治療を受けながら、父親に迎えられる日を夢見て、路上仲間が無惨に薬物に逆戻りして落命していくのを横目に、なんとしても断薬を成功させようとケアテイカーに治療継続を誓う。

また近所に住むアクティビストのベティが忌み嫌う(理由はのち明らかになる)薬物依存をひた隠しにして、淡いロマンスを期待する。
といっても、途中ケアテイカーが助言しているとおり、依存者が治療中に交友関係を発展させるのは難しいらしく、ベティのキャラクターも相まってロマンスというより都市生活者の細い連帯を丹念に紡いでいる印象。

セカンドチャンスの足がかりはそこここにあるのに、なぜ失敗するのか。ビッグイシュー、メタドン治療、家族、隣人。
映画はこれら社会とのつながりが復帰のきっかけになる一方、それがいかに脆いかをつきつける。売人の誘惑、ビッグイシューの反則、治療のスキップ、頼りない家族の口約束。

自分の所属する世界がなければ、路上の誘惑や無気力に飲み込まれていくのもまた至極簡単な道だろう。映画は人の繋がりを通して奇跡的な出口を描きながら、制度の実際を垣間見させる。
薬物の規制、犯罪化、そしてノーマライゼーションについての系譜は2014年の記事だがこんなのが参考になる
https://synodos.jp/opinion/society/6754/

あと動物の福祉についても劇中触れられていたので少し検索してみると。
2010年の調査によると保護施設への年間引き取り数は、犬が9~13万頭、猫が13~16万匹で、そのうち殺処分になったのは、犬が1~1.3万頭で、猫が1.7~2万頭です。つまり、殺処分率は犬が10.4%、猫は13.2%
対する日本の猫殺処分は2010年の調査が15万匹(80%)、2018でも3万匹(41%)。動物愛護先進国ドイツの殺処分公称0には遠く及ばず、イギリスにも大きく遅れをとっている。
https://www.docdog.jp/2020/07/magazine-dogs-s-y-3342.html
イギリスでは犬猫の生体販売に規制をかけ、多額の寄付に基づく福祉団体の活躍が実を結んでいるようだ。
https://www.friendswithpaws.co.uk/blank
一方こちらは「動物愛護の先進国」伝説を検証する記事(犬について)
https://www.koinuno-heya.com/myth/uk-japan.html

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しかしボブの名前の由来がツイン・ピークスだったとはね。
もうすぐ公開される続編はクリスマス・ストーリーとのこと。残念ながらボブは交通事故で2020年に亡くなったそうで、続編では彼のラストアクトが拝めるようだ。