半兵衛

美女のはらわたの半兵衛のレビュー・感想・評価

美女のはらわた(1986年製作の映画)
3.5
昔日本のホラー映画を特集した雑誌でこれが掲載されていて、それ以来気になっていた作品。いざ鑑賞するとポルノ映画という低予算のなかで工夫してエロとスプラッターを両立していることに感心したけれど、それ以上に海外のホラーを意識していたはずなのにやくざたちの被害にあい殺された女性が異形の怪物となって復讐するという構図が日本の怪談ものと被っているのが面白い。

ガイラこと小水一男監督は師匠である若松孝二監督ゆずりの効率のよさと予算内で製作していく手腕を発揮しており、お金がかかりそうなところは見せ場のみに限定してあとは普通のアパートをやくざの事務所に無理矢理換えたり、主人公の女医が働く診察室に水槽に入った熱帯魚の画を組み込みたいけれど予算を抑えるため本物ではなく部屋にあるモニター越しの映像で処理したりとある程度誤魔化すことには成功しているけれど、やはり登場人物の少なさや舞台が狭い場所しかないのでチープさが拭えないのは否めない。

それでも暴力的なポルノシーンや怪物に殺されたいく人たちのゴアな描写など見せ場をしっかりと作っているためそれなりに楽しく鑑賞することが可能、ただそれでも人の破壊描写が作り物丸出しだったり音で強引に誤魔化したりしているためダメ映画を見ているとき特有の「しょうがないな」「安いなあ」という気分になり不思議と笑みがこぼれてくるけどね。そういう意味では一般人よりもマニアなど好事家向けではあるかも。

やくざ数人が女性を暴行する場面で発せられる奇声がすさまじく不快な叫び声で彼らに対するムカムカ感が込み上げてくる、受け手である女性たちの演技もリアルなので映像は単なるポルノなのに不快な映像を鑑賞しているような気分に。

ギーガーを意識したかのような怪物も印象的、ただスーツのチープさを隠すためか出演する場面は少ないし殺害の様子にケレンがなくあっさりとしすぎなところが不満。むしろ中盤、女医に催眠術をかけられ事務所に殴り込んだ佐野和宏を組員が日本刀や銃でなぶり殺しにする場面の方が手が吹っ飛んだり叫び声がリアルだったりとゴアさが凄かったりする。

「時間がないので見せ場だけ用意しました」と言わんばかりの伏線もドラマも薄いストーリー展開の潔さもかえって心地いい、やくざに捕まっていた女性を一日匿って事情を聞いただけなのに自殺した彼女のためにやくざへの復讐を企てる女医もよく考えたら変なのだけれどそれが鑑賞するとき気にならないのが凄い。

復讐ものにしては予想外のところに着地したオチも見所。

ちなみに小水一男氏は見た目はモンスターっぽい人ではあるが知的で穏やかな人柄であり(佐野和宏監督のDVDでのオーディオコメンタリーを聞くとそうした人柄を知ることが可能)、ビートたけしや佐野和宏が親しくしているというのもそうした人格者だからなのかも。
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