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ニューヨーク 眺めのいい部屋売りますのNMのレビュー・感想・評価

3.3
「ニューヨークの眺めのいい部屋売ります」だと思っていた。
『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』だった。
原題は『5 Flights Up』、5階建て。(原作小説は『眺めのいい部屋売ります』)
不動産売り買い騒動と、それを通じて主人公夫婦が今までの人生を振り返って大事なことを見つめ直すあたたかな物語。
コメディにカテゴライズされることもあるがそこまでおもしろおかしい要素はなく普通にリアルなやり取り。

カーヴァー夫妻は年をとってきたので、長年住んだエレベータなし五階の部屋を売ることに。
そして一回り小さくてエレベータ付きの物件を探す。

愛犬の手術も高額だし、新しい物件の費用も必要。
さらに近くでテロ騒動が起こり、その事態が悪化する前に一刻も早く売ってしまいたい計算もある。

不動産事情は複雑でスピード勝負。
内見には大勢の客が来て、その後はオファー合戦にうつる。
見知らぬ他人が家に入りジロジロ見て触ったりするし、被常識で失礼な客もいるのでそれだけで結構なストレス。
金額は大事だがあまり嫌な客に売りたくないという気持ちもある。

また夫妻は新しい物件を探す客としてその逆のこともしなければならない。
年齢を考えるとあまり高額なオファーは出せないが、妻が気に入った物件を落札してやりたい夫の気持ちもある。

夫婦の気持ちの推移が見どころ。
始めは乗り気じゃなかった夫が妻に背中を押されて買い付けオファーをリードするようになり、今までの二人を思い出してやがて最後の結論にたどり着くまでの気持ちの変化が面白い。
一見何も変わらないようでいて夫婦の絆はますます深まったのだろう。
階段が辛い年齢になったらそのアパートは売るのが当然の判断だと思い込んでいた自分に気付かされる。この夫婦なら別にもっとぎりぎりまで住んでそこから考えたって良い。
何となく話が持ち上がって本当に必要かどうか分からないまま一気に話が進むことというのはある得る。
手伝いをした姪からすれば迷惑な話かもしれないが、やってみた結果分かることもある。手放した後に気づくことにならなくて良かった。

テロの犯人とされている男のニュースが象徴的。ニュースを見つめる市民たちは男を全力で罵倒するが、はたして本当に犯人なのかあやしい雰囲気がずっと漂っている。そう報道されているから誰も疑わない。
この男が犯人にせよ違うにせよ、ともかくかわいそうな状況であることには違いないことに彼だけは気づいた。何事も多数意見に流されないことは大事。
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