くもすけ

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のくもすけのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

全体に再現ドラマ調だが、クランストンが全裸を披露していい人ぶりを好演し、絶対血の繋がってなさそうな娘役エル・ファニングが好感度上げている。

家族との緊張が描かれている。トランボはクレオが当時ウェイトレスをしていたドライブインに一年半も通い詰め、熱烈なアタックをかけて婚約者を押しのけて結婚している。
クリスマスも家族そっちのけで脚本書いていたのは実話で、家にはプレミンジャーもいたのだが1時間だけお祝いの時間を融通して再び執筆に戻ったらしい。

ウェインと喧嘩するシーンで啖呵切ったとおり、45/7にボルネオに記者として従軍している。一ヶ月ほど滞在し、爆弾積んだB25に搭乗し長崎上空を飛んだ。

●スイミングプールコミュニスト
映画はハリウッドがいかに狭い世界か強調する。NY舞台畑からやってきたリベラル脚本家がハリウッドで組合活動を始めると、会社は御用組合を立ててこれに対抗する。トランボは組合の理事として半年に渡るストを闘い、いくつも会社を渡り歩き高給取りになる。彼が党員になったのは43年と遅かったが、御用組合側は共産党が労働争議を通じてハリウッドを乗っ取ろうとしていると喧伝し、トランボらを攻撃した。映画ではMPAPIのホッパーら保守陣営との対立が強調され、さながらハリウッド村の新旧勢力争いの様相。そういえばコーエン兄弟がどちらも茶化した作品を作ってたな。

原作に出てこないヘッダ・ホッパーは映画・テレビに出演した役者、コラムニスト。ゴシップコラムを書けば2000万人の読者を持つと言われ、ユダヤ系、性的少数者に差別的だった。ちなみに大量の出演作があるが遺作はテレビ映画「新・不思議の国のアリス」のマッドハッター役。

●1947年10月20日テン召集
担当した裁判官ロバート・W・ケニーによれば、法廷侮辱罪は過去の判例では最長30日程度の実刑があるだけ。委員会にてローソン、つづくトランボが強気で証言をこばみ、結局テン全員が侮辱罪で終結し、ハリウッドからテン支持のためかけつけた錚々たるメンツが面食らう。
まもなくウォルドーフ協定で党員およびそのシンパの雇用禁止令が出され、仕事がなくなっていく。
トランボは48年離党し、政治にも働きかけるがウォレス大統領候補は落選、さらに同情的だった裁判官二人が相次いで死去。49年最高裁は上申審理を拒絶し実刑確定。

●匿名時代
キング兄弟と出会い、なんとか牧場を手放さないように書きまくる。キング兄弟はメジャーの向こうを張って「デリンジャー」を大ヒットさせたあこぎな巨漢3兄弟。

他人名義なのはリストを欺くほかにも理由がある。この時期弁護士を通じてMGMへの復職または契約破棄後の和解を求めた訴訟の準備に入っており、他社との仕事は契約違反になる。他のテンメンバーも雇用契約違反に対し訴訟の準備をしていた。

当時トランボは解雇でなく停職処分状態。実際MGM法務部でも彼への処分が妥当か確信はなく、ロバート・W・ケニーによればリストは本来独禁法違反にあたる。誰もがあれほど長引くリスト時代を甘く見ていた。

トランボのように皆が仕事にありつけたわけではない。彼は証言拒否を貫き刑期も努めた筋金入りの抵抗者だったが、多くの人が長引く攻撃に疲れて仲間を売った。実際刑期やリストの効果以上に、仲間同士の信頼が断ち切らされたことのほうが過酷だったようだ。かたや亡命組が偽名・実名で製作した映画は国際映画祭で評価されるがそれはまた別の話

●その後
テレビが普及し始め、垂直方式が崩壊して業界の再編は進み、ダグラスやランカスターら俳優出身の個人プロが追放組を起用し、リストは有名無実化していく。

エピローグは70年WGA功労賞受賞式典。トランボは記念スピーチにて「みんなが犠牲者」とシメて、苛烈な批判を予想していた仲間たちから失望、批難を受けることになる。