むさじー

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のむさじーのレビュー・感想・評価

3.8
<国家の危機で表現の自由が奪われた時代>

第二次大戦後の1947年、ソ連との新たな緊張関係から国全体が愛国反共ムードに流されていたアメリカ。当時のハリウッドでは共産党員や共産思想を持つ者を弾圧する“赤狩り”が行われ、脚本家のトランボも理不尽な弾圧で刑務所に服役という事態になる。出所しても窮乏生活を強いられるが、それでも彼は家族の絆に支えられ偽名で書き続ける。どんな逆境にあっても己の信念を曲げず最後まで権力に屈しなかった男と、それを支えた家族の苦闘の物語だが、一方でナショナリズムの恐ろしさに言及している。
アメリカが標榜するのは正義と自由。しかしこの二つの理念には相反するところがあって、正義を旗印にして絶対的価値を置く全体主義国家になった時には、自由は即座に追い払われてしまう。そして国家の危機ともなればどの国でもナショナリズム精神から同調圧力が強まるもの。トランボは自由人であり人の尊厳を重んじるヒューマニストだったが故に、迫害の矛先に立たされてしまった。
それにしても何故70年も前の話を映画化したのか疑問だったが、トランボが偽名で書いた『ローマの休日』の脚本を、2011年に米脚本家組合がトランボの作と正式に認めたかららしい。うがった見方をすると、現代でも自由を謳いながら思想弾圧の恐れがある、そんな時代が再来しかねない危機意識があるからともとれる。隠れたメッセージのように思えた。
また、テーマが違うからとはいえ、トランボ唯一の監督作で、ベトナム戦争に反旗を翻した名作『ジョニーは戦場に行った』に全く触れていないことが不思議だった。
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