三隅炎雄

暗黒街シリーズ 荒っぽいのは御免だぜの三隅炎雄のレビュー・感想・評価

4.2
『殺しの烙印』と同じ年に公開された(1月)もう一つの奇妙な殺し屋映画。鶴田浩二が鉄オタの殺し屋を演じる。
研ぎ澄まされたハードボイルド調のアクションとやや間延びした日常が混在していて、文体不徹底の世界が居心地悪い。引き締まっているようで緩んでいる。緩んでいるようで引き締まっている。
鶴田浩二・久保菜穂子が敵を巻くようにして京都の路地を歩く。ここからが面白い。二人と共に映画がいつしか迷路めいて、突如顔にグロテスクな刀傷のある志村喬が現れたのを契機に、映画全体が定型から大きく逸脱していく。
墓地を急襲するヘリコプター、ブーメラン使いの殺し屋。数分に渡って無言で進むサスペンス・シークエンス。饒舌に自分語りし始める登場人物。歌謡映画とはまた違う「夢は夜ひらく」をバックにした久保菜穂子の詩的独白。殺し屋とそのやくざの父との愛憎劇が、主軸のハードボイルドスタイルとはまた別の、後の『傷だらけの人生』『傷だらけの人生 古い奴でござんす』同様に鶴田の実人生にも繋がるような、暗く湿った情念で映画を撹乱する。全体が歪な細部に彩られて、不定形であることの魅力こそが目指されているのが分かる。
監督は「列車」「旅行」シリーズの瀬川昌治。猫しか愛せなかった殺し屋はアラン・ラッドだが、この映画の鶴田浩二は同じ鉄オタの少年頭師佳孝にだけは心を許す。大人と子供、鉄オタ二人の知識自慢・情報交換が感動を呼ぶ映画なんて他にないだろう。
三隅炎雄

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