まつこ

ナショナル・シアター・ライヴ 2016「夜中に犬に起こった奇妙な事件」のまつこのレビュー・感想・評価

4.0
ナショナル・シアター・ライヴ2016 第2弾。

15歳の少年クリストファーは頭脳はピカイチなのに自閉症で対人関係に問題を抱えがち。ある日、隣人であるシアーズ夫人の飼い犬が何者かに殺され、現場に居合わせた彼は容疑者にされてしまう。「僕が探偵になって真犯人を見つけてやる!」と意気込むが事態は思わぬ展開へ…

映像なので舞台の緊張感は伝わりにくいのですがとても面白かった‼︎

愛だけでは救えない家族の物語。
愛していないわけじゃない。
溢れんばかりの愛がそこにあるのに…
父や母の不器用な愛に胸が締め付けられた。

アスペルガーのクリストファーの閉塞感が舞台装置や音楽、役者のアクロバティックな動きで表現されていて特に2幕には魅せられました。確かにあんな風に見えたら怖いよね。

彼にとって世界は混沌としていてすごいスピードで通り過ぎながらもストップモーションで迫ってくる。情報処理が追いつかない表現が実に見事でした。

ちょっとドラン作品の〝mommy〟っぽいけど、わかりやすい愛の交差と閉塞しているようでも世間と交通している本作はあたたかい愛に溢れているのでラストは優しい気持ちになれるはず。ただ、彼の勇気と成長にほっこりしながらも先生の表情に世間の厳しさを感じさせられました。

彼が数学の問題を解くシーンは特に好きだなぁ。EDMに合わせて早口でまくし立てながら楽しそうに解説する姿はまるで魔法使い!プロジェクターで図形を出してはキラキラ輝く床にワクワクしました。

彼はロジカルで単純な世界の住人。
隠喩なんてわからない。
創造はできても想像はできない。
嘘をつかない数字の世界は彼にとって美しくて心地よい世界なのだろう。

分かり合えないと相手が怖くみえるけど、相手も私を恐れているのかも。

英国人に愛されている原作の舞台化。
クリストファーの心情は丁寧なのですが他の人物についてもう少し追いかけたくなりました。日本語訳も出ているみたいなので読んでみたいな。
まつこ

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