よしまる

帰ってきたヒトラーのよしまるのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.1
 なんとなく見てみたら面白さの深さが半端なかった。

 最初はスラップスティックなコメディかなと思ってちょっと斜めの角度で笑いながら見ていたのだけれど、モノマネ芸人が街角インタビューを敢行(後にゲリラ撮影と知ってなるほど!)していくあたりから「これはもしや結構マジかもしれない」と感じてくる。

 能天気なパロディの装いから、次第にシリアスな風刺もの、さらには現代に生きる我々への問いかけへと作品のテーマをシフトさせていくにつれて、画面も影を帯び始め、観ているほうも背中がヒンヤリとしてくる。原作ありとはいえこの構成はお見事だった。
 そもそも原作のほうはあくまでシチュエーションコメディということらしく(未読です)、そこから踏み込んでいるのだとしたらなお素晴らしい。

 物語は自殺したはずのヒトラーが現代のベルリンで目を覚ますところから始まる。
 変わり果てた街を再びかつて夢見た栄光の帝国へと戻すべく、モノマネ芸人という誤解を背負ったまま街頭でインタビューを試みたり、ネオナチのパーティーに参加したり、またヒトラーとして求人して実際に面接までしたりと、割と本気でドキュメンタリーを撮っている。(もちろんその映像が映画でも使用されている)

 現代のドイツが抱える問題を的確に炙り出し、いつしか扇動を始めるヒトラー。だがそれは彼一人の思いではなく、国民の代弁に過ぎないと言わんばかりの説得力。いまの若者が見たとして、影響されない保証などどこにもなく、極度のナショナリズムが抱える危険性を否が応にも見せつけられる。

 実際のところ、インタビューにおいてはカメラが回っているにも関わらず(否、だからこそ)あからさまな人種差別や移民への嫌悪感を露わにする人がかなりいたそうだ。ドイツにはそんな極右の思想など無くなったと思うなかれ、明確なビジョンを持つ指導者が現れれば一気に右傾化することは世界のどこにいてもあり得るし、けして昔話でもなければ他人事でもない。
 ちょうど時代はトランプや安倍政権が右っ側で幅を効かせていたころ。そんな時にドイツという国が自らこのような映画をしっかり作り込んでくれたことには拍手喝采したい。

 マスコミサイドの出世合戦やら主人公のヘタレ具合などのスパイスはイマイチアッサリ味で面白味に欠けたところもあるけれど、逆にそのエンタメ要素があればこそ、終盤のファンタジックな展開も浮くことなく、最後まで深く余韻を残して終わる。

 知らぬうちに、わずかな時間であったとしてもヒトラーに感情移入している自分がいたという事実を否定できない。

 笑いの中にある不気味な影に戦慄する、これを映画的な深い面白さと言わずしてなんと言おうか。