しんご

帰ってきたヒトラーのしんごのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
5.0
チャップリンの「独裁者」(40)に始まるヒトラー作品ないしナチズムを否定する作品は数あれど、本作は「コメディ」という別の切り口でそれらを描いた非常にメッセージ性の強い名作。

現代にタイムスリップしたヒトラーが芸人か売れない役者と勘違いされしばらく売店でバイトする画づらが凄いし、そんな彼がバラエティ番組にスカウトされる構成はとにかくおかしい。

番組において彼が演説をするシーンからがまさに真骨頂というべきか、一拍息を置いて周りを見渡しながら話し始めるヒトラーの仕草と話術で劇中の客のみならず自分も虜になった。

怖いのはストーリーを追う毎にどんどんヒトラーに魅了されていった自分がいたこと。どんな時代に生きても自分の信念がブレずに、分からないことは教えを乞うてでもとことん勉強する。人物を見抜く眼力が抜群で、常に国家のために心血を注ぐ。犬の交配を例に「他種と交配を繰り返すと国家の基盤たる血統が失われる。純粋血統は非常に大事だ」とザヴァツキに優しく説くヒトラーの論理は非常に極論な筈なのに、彼の話術に惚れそれを暖かく見ていた自分がいたのには震えた。

そこにヴェント監督の狙いがあるのだけどね。監督曰く「ヒトラーの悪魔性を強調するのでなく政治家として非常に有能であることを描きたかった」そう。さらに、「そんなヒトラーに大衆が魅了され彼を支持したことを一番描きたかった。極右思想が誰の心にも宿る可能性があることをね。」と監督は続ける。この演出は見事に観客の心を掴んだ点で成功と言えるだろう。「怪物を選んだのは普通の人々だ」...ヒトラーのセリフが心に刺さる。

ラスト10分の後味悪いストーリー展開には誰もが唸り考えさせられること間違いなし。
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