うめ

帰ってきたヒトラーのうめのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
3.4
 ドイツで大ヒットした同名小説の映画化。1945年のヒトラーがタイムスリップして現代のドイツにやって来たら…というお話。

 私は鑑賞する前に原作を読んだのだが、あの原作の良さがあまり活かされていないような気がした。というか、あの原作の大枠を持ってきただけで、描き方や結末は異なるから今作は原作と別物と考えた方がいいかもしれない。

 まず大きく異なるのが、セミドキュメンタリーであること。ヒトラーに扮した俳優が実際に街中に出たときに、現代のドイツ国民がどういう反応をするのかを映し出す事で、現在のまさにリアルなドイツの反応を見ることができる。確かにこのパートは興味深いと言えば興味深いのだけれど…ストーリーのパート(俳優が演じたフィクションのパート)との繋がりが良くなくて、作品全体としてはぶつ切りのような印象を受けた。

 そして、やっぱり無理だなぁと思ったのが、ヒトラーの容姿。似てない…。いくら付け髭、付け鼻をしてもあんなに背の高くてひょろっとしたヒトラー、(実際の映像や映像作品において)見たことありません。ドキュメンタリー部分で人前に出すために無名の俳優を起用したかったという意図は理解できますが、あれではますますコスプレです。原作は皆が作り上げた「ヒトラーのイメージ」ではなく、「ヒトラー」という人物を描き出すことを目的としていますが、これほど容姿が異なると「ヒトラーのイメージ」をつけただけの一人の俳優の像ができるため、原作から大きく逸れてしまっているような気がします。もう少し似た人を探せなかったのだろうか…。

 あと名作のオマージュなんかもちらほらありましたが、これと言ってストーリーに関係している訳でもなく、さほど面白い訳でもなく…作り込みが甘いなぁと思いました。原作とは異なるラストも、メッセージをあからさまに出し過ぎて作品の結末としては陳腐に感じた。

 今作を観た方で原作未読の方は、是非原作を読んでみて下さい。上下巻で長いと思われるかもしれませんが、面白くてするっと読めます。ナチスやヒトラーに詳しい方なら、もっと楽しめます。
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