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月下の蘭のdaiyuukiのレビュー・感想・評価

月下の蘭(1991年製作の映画)
4.0
10年前、愛する妻の名美(余貴美子)と娘を、助けることが出来ず目の前で殺された税理士の橋川(根津甚八)。
10年後、橋川は、雀荘の代打ちとして糊口をしのぎながら、心の中で妻と娘を救えなかった悔いが燻っていた。
ある日ふとしたことから、アイドル歌手の蘭(藤原美紗)と知り合った橋川は、金儲けを企む。
だが蘭は何者かに誘拐され、悪徳実業家(団次郎)のところへ売られて麻薬浸けにされてしまう。
そうとは知らず橋川は、蘭が所属する芸能事務所にユスリの電話をかけてしまう。
身代金の取り引き場所には、ヤクザが待ち受けていた。
ヤクザから追われる橋川を、蘭の熱狂的なファン裕介(山口祥行)がバイクで救う。
だが裕介も、蘭を救おうとして命を落としてしまう。
裕介を弔う一人だけの通夜の中、橋川は自分は10年前ドアの影に隠れて、妻子を見殺しにしたことを思い出す。
自分の過去を悔い、橋川は蘭を救うため単身で実業家の豪邸に乗り込むが、返り討ちにあう。
傷ついた橋川を、橋川の亡き妻に生き写しの女・陽子(余貴美子二役)が救う。
陽子の献身と愛で燻っていた橋川の心に、一つの決意が燃え上がる。「もう見殺しにしない。たとえ命に替えても」
橋川は、自分の過去の贖罪と再起を懸けて、実業家の豪邸に乗り込む。
日活が、オリジナルビデオで映画に匹敵する作品を生み出そうという意図で誕生した「にっかつビデオフューチャー」の一作として制作した作品。
この作品以降、石井隆作品の常連となる根津甚八と余貴美子が出演した第1作。
根津甚八の役名は橋川だけど、自分の過去に悔いを持ち、心が燻っていた男が窮地に陥った女を救うべく奮闘することで燻っていた悔いを昇華させるキャラクターは、まさに「村木と名美」ものの村木そのもの。ヤクザのリンチにズタズタされ、蘭を救うために命を落とした裕介の目の前で痛飲しながら「俺には蘭を救うことなんて出来ない」とぐずぐずしながらも、蘭を見捨てず巨悪に立ち向かう橋川の姿は、「ヌードの夜」の紅次郎の原型を思わせる。佐々木原保志ほどの官能性や映像美は及ばないものの、陽子が献身的に橋川を看病するシーンの青みがかった映像美、悪夢にうなされた橋川の下に殺された橋川の妻子などが訪れる夢幻なシーンなど、低予算でも表現したいことをし抜こうとする石井隆監督の気概が見える渾身のハードボイルドアクション映画。
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