emily

ハイヒール こだわりが生んだおとぎ話のemilyのレビュー・感想・評価

3.7
 人間の果てない欲望により世界が滅びそうになったとき、人々は自らアンドロイドになった。しかし長い月日を隔て、アンドロイドにエラーが起き再びあらゆる欲望を取り戻してしまう。アンドロイドの靴職人kaiは客に合った靴を作り上げる。しかし実際出来上がった靴をお客さんが履いてみると、微妙に足に合わない。再び手直しに入るが・・

 ハイトーンの色彩の中、黄色、青、赤と感情を纏った気品漂うドレスとハイヒールを身にまとったお客たち。生活感の全くない異空間の中でジェンダーレスな洋服を身にまとうkai。部屋の真ん中にブランコがあり、時折幻想が交差する。まるで夢の中の世界のような、無限ループの空間の中で、やがてサスペンスフルな音楽と共に展開も少しずつ曇った世界観を見せてくる。

 とにかくデザイン性と質の良さが目にも感じ取られる洋服や靴。ほぼ色と質感を大切にした物が多く、シンプルな中に細部まで考えつくされた構図と繊細なデザインに目を奪われる。ハイヒールを纏った足元のアップも美しい。音を立てないように、頭の先をつり上げられた人形のようなたたずまいの人物像達。

 ファンタジータッチでまるでおとぎ話のような異色な空間を作り上げながら、人間の欲望の醜さを徐々に浮き彫りにしていく。アニメから実写へと夢物語のような運びと空間の中でざっくりとサスペンスフルな展開に転ぶ。それは対照的でありながら平行線状にある。まるで無限ループのように続いていく終わりのない世界と欲望の果てを交差させる、その色彩の中で描かれるからこそ欲望に支配されてしまう人間の嵯峨が残酷に響き渡る。
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