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ジョン・F・ドノヴァンの死と生のmのレビュー・感想・評価

4.0
@「俳優の何を知るべきだ?
  彼は何をさらけだせばいい?
  なぜそんな必要が?」

なにかを演じれば、演じただけ更に演じなければならない。嘘をつくとそれを隠す為に嘘をつく、それと似ている。演じることを生業としたとき、その人の本質はどこまで本質として具現化されるのか、そんなことを思った作品だった。

いやー、号泣でしたね。ドラン映画としては、そんな評価が高くなかったのでもろにアッパー食らいました。もう久しぶりに揺すぶられました。

若き鬼才グザヴィエ・ドラン監督。
最近のドラン作品の感想でよく見られるのは〈ドランが描かなくてもいい〉〈もっと過去作のように降り切って欲しい〉というもの。これが面白いというか、鬼才が周りの意見を聞いて大衆寄りになってきたのは興味深い。ドキュメンタリーでも描かれていたが、彼は周りの意見を積極的に聞き入れてブラッシュアップしていく。ドランのバランスの良いセンスは健在だが、今後、作家性を突き詰めるのか、もっと大衆に寄るのか見守りたいなぁと思う。今現在、どちらにも振れる分岐点というか、両方健在していて面白い。
顕著だったのが今作のタイトルクレジット入り。いや、あそこは素直に鳥肌が立った。音楽、ジョン・F・ドノヴァンがカメラに視線をあげる瞬間、大衆を惹きつける強いセンスを感じた。最高にクールだった。

人気のテレビシリーズに出演し、瞬く間にスターになった俳優のジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントンさん)が、29歳の若さで亡くなる。自殺か事故か、あるいは事件か。謎に包まれた死の真相が、11歳の少年ルパート・ターナー(ジェイコブ・トレンブレイさん)と、ひそかに交わされていた100通以上におよぶ手紙によって明らかになる。そんなストーリー。

ドランが8歳の頃に『タイタニック』に出演していたレオナルド・ディカプリオさんにファンレターを書いたという事実が元になったらしい作品。

キット・ハリントンさんが演じたジョン・F・ドノヴァンは従来の《病んだ役者》《危うい役者》を地で行く感じがリアルだった。死因が故意かどうかは分からないがリヴァー・フェニックスさんを彷彿とさせる姿だった。また親しい人(母やマネージャー、恋人)を失った(理解されない、拒絶された)姿はアレキサンダー・マックイーンさんを思い起こされ、悲しくなった。アレキサンダー・マックイーンさんに想いを馳せた。

それと対になるのがジェイコブ・トレンブレイさん演じたルパート・ターナー。まだ11歳と世界の仕組みが分かっていないながら自身の人生をしっかりと見つめている彼。当時12歳と役柄と近い年齢ながら、ルパートを熱演しており、ジェイコブさんの未来が気になってしまう。
サム(ナタリー・ポートマンさん)との激しいやりとりが凄かった。ロンドンでのサムとルパートの再会に涙が止まらなかった。

未成年に手を出すのが日本より厳しいアメリカ。そんな中で11歳と文通をするのがどれほど恐ろしいか理解できる。リスクがありすぎる。バレた時の周りの反応も過激では無くあれがリアルなんだろうなと思う。けれど、ファンレターに返信してしまうほどルパートが気になり、また自身の拠り所としていただけ、彼の孤独が伝わってくる。

ドランはマザコンだなぁと思いながら、これだけ自身の深層心理を描くのにはそれなりに理由があるんだと思う。母親という視点から、ジョン・F・ドノヴァンとルパートは対照的過ぎるほど、対照的に描かれており、ルパートがうまくいくと嬉しくなるのにジョン・F・ドノヴァンのことを思うと辛くなった。
それでもラスト付近の、母と兄、ジョン・F・ドノヴァンの三人入ったお風呂が印象的で唯一心が温かくなった。まぁ、すぐに冷やされるんだけど笑(憎い演出)

大人になったルパートに当時のことをインタビューするオードリー(タンディ・ニュートンさん)がいい味していて、ラストの笑みにこちらも微笑んでしまった。
ルパートは大丈夫。ジョン・F・ドノヴァンの死を経て生を受け取った。
タイトルを『生と死』じゃなくて『死と生』にしたドランのセンスよ!笑

ルパートとジョン・F・ドノヴァンを経由してドランが言いたかったことが、今後のアーティストに受け継がれていけばいいよね。
LGBTQの観点で言うならアーティストだけじゃなく、みんなが受け取れたらいいね。

ストーリー : ★★★★☆
映像 : ★★★☆☆
設定 : ★★★★★
キャスト: ★★★★☆
メッセージ性 : ★★★★☆
感情移入・共感 : ★☆☆☆☆

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 君だけ──
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