どうぶつどどいつ

風櫃(フンクイ)の少年のどうぶつどどいつのネタバレレビュー・内容・結末

風櫃(フンクイ)の少年(1983年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

感情移入をしようとしてもできない。立ち入らせない。ただ見てることしかない。
そしてその見てるのをすべて背負ってひとりで立つようなあの女の子のすごさ。奥行きがあってあの男の子も見てるけど劇場の観客の色んなところから見た視線もいっきに引き受ける感じで凄みすらありました。
高雄の階段をのぼったところの盗みがバレて日本に逃げる彼氏が寝てて女の子の名前を呼んでいる。女の子がむこうの男が寝てるへやに消える。しばらくの間がある。そのあと電気が消えるところ。そのあと男の子が外に出ていく。凄い場面でした。真っ暗な画面から電気をつけると小さなフレームが浮かび上がったり海がみえたりします。
回想シーンが別の映画を中に内包してるみたいにもう1階層ある。そして観てる映画のフレームもまた過去に流れて記憶の中になるので、回想シーンのようになる。凄かったです。
ひだまりでイスに座る。ご飯を食べる。物を投げる。痩せ我慢して仕事に没入して忘れるとかおなじ仕草や黄色い看板の場所などを繰り返すところも凄かったです。映画の中で映画館が3回出てきます。そのうち一個はニセモノで騙される。それを観てるところも凄い。なんだよ白黒かよと劇中でがっかりされる1本目はイタリア映画でしょうか。ぼくは観たことない。観たことのない映画をああいう場面でちらっと覗き観るのは部外者という感じがして面白い。3本目が香港のカンフー映画でジャッキー・チェンの師匠の役の人が出てる。それを別のことを考えながら観ている。そうそう。映画ってあんなふうに観客の心情とかんけいなく写っています。お父さんや女の子は椅子に座って景色を眺めています。別の映画を観てるようなのですがどんな映画かはわかりません。
だんだん黄昏れて映画が終わりに近づくのもストーリーではなく画面から伝わる。あの人たちのあの場所での居るという感じ。あのラストシーンだってふられて落ち込んでも仕方ないと空元気で屋台のカセットを売るんですから寅さんみたいなものですが観たあとの感じはまったく違うし、フェイドアウトは光がなくなって遠くへ去っていくようです。
脚本はオーソドックスな感じですが、画面がほんとに凄い映画でした。ぼくは台湾に住んだことがありませんが実感のある不良の映画で暴力もギャグもサスペンスもエロもあって面白く、その撮り方がよくありそうなジャンル映画とは違う感じに見せるのが凄いと思います。照明の人や音響の人や撮影監督や助監督などが他の現場にもついてベテランの人もいるのでこういうときは通常はこうやって撮るというのがあると思うんですが、それはやらないで外す。そういうところが不良だなあと思いました。イスの場面は東京物語のオマージュのようにみえます。そのまんまじゃなくて東京物語は窓の向こうに海があるんですが、この映画は海のほうから逆のほうから撮ります。なんとなくこれは観る方と見られるほうの方向を逆にしたほうがいいと思ったのではないかなと思いました。ひとつは舞台でやるほうと見る方は向かい合わせているので左右が逆になります。見る側からやる側にまわるときは方向を逆にしないといけないからではないかと思いました。もう一つはうけとったものをお返ししないといけないからかなと思いました。大林宣彦だったら見る側のほうからファンの気持ちではしゃぎながらそのまんまやるのですが、この監督は違う。やっぱり不良だと思います。
音はアフレコで完全にジャンル映画の感じです。不良を題材に取り上げたというより、不良が不良のまま映画をとった感じでした。ここ最近観た中でとくに良かったと思うちょっと特別な感じがする1本でした。