ポラ丸

風櫃(フンクイ)の少年のポラ丸のレビュー・感想・評価

風櫃(フンクイ)の少年(1983年製作の映画)
5.0
2019.5.8 ケイズソネマにて鑑賞
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「高雄の青春」

この映画は邦題で損をしている。なぜなら風櫃は少年たちの過去、いわば使用前の世界なだけだ。

最初に馬公の映画館でタダ見をするところがある。「モノクロかよ」とか言いながら見ていたのはルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」。侯孝賢監督はこの映画に触発されて自身の「若者のすべて」を撮りたかったのだろう。

どちらも「都会に出た少年たちが大人になっていく過程」がメインテーマ。
悪友たちとつるみ、喧嘩、悪戯、皆と一緒におんなじ気持ちで行動していた彼らが高雄の街で一人一人の個性に目覚めていく。

だから阿清が日本語を勉強したり、高雄の不良に喧嘩をふっかけたり、遠くから小杏を見たり・・・そういう場面の一つ一つがとても大事。

膨湖島の出来事は少年時代はこうだったという説明であまり重要ではない。仲間とのこと。家族の中の違和感と懐かしさ。そういうものを捨てて大人になっていくんだね。

アパートは旗津半島にあって鼓山のフェリーで高雄の工場に通う。大雨のベランダに小杏の籐椅子が置かれていた場面が印象的。侯孝賢監督は雨の場面でストーリーの流れを切り替えることが多い気がする。このアパートは早くに取り壊されて長く空き地になっていた。小杏が占いをする旗津天后宮は今も撮影当時のままだ。

脚本は侯孝賢監督の生涯のパートナー朱天文。妹の朱天心も作家、詩人。「冬冬の夏休み」は実際は姉妹の夏休み。二人の母の実家、トンローの旧日本人医師宅で撮影されている。

この映画では小杏の気持ちの描写が素晴らしい。朱天文さんの脚本は相手役の女の子の実在感を表現して映画全体を魅力的にしていると思う。今回の「台湾巨匠傑作選2019」でも本作、「台北ストーリー」「恋恋風塵」と脚本が多い。どれかが気に入ったら、彼女の脚本の映画を追っかけてみるのもいいだろう。
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